採用・組織

多重下請け構造はなぜ発注コストを押し上げるのか。数字で見る仕組みと、抜け出す方法

イーランサー・ジャパン株式会社

多重下請けは「下請け側が搾取される問題」として語られがちですが、実際には発注する企業にとっても損失が生じています。同じ金額を払っても、届く価値が目減りするためです。この記事では、公的な調査データをもとに構造の実態を確認し、なぜコストが膨らむのか、そして発注側に何ができるのかを整理します。

数字で見る構造の実態

公正取引委員会は2022年6月、前回から18年ぶりとなるソフトウェア業の大規模実態調査の結果を公表しました。資本金3億円以下の事業者約2万1,000社を対象とした調査です。

この調査では、「細分化と再委託の繰り返しで商流が多層化・複雑化し、極端に長い商流が形成される場合がある」ことが指摘され、最大で6次下請けの事例が報告されました。

違反の件数も突出しています。令和3年度の下請法違反による措置件数は、情報サービス業が686件で全業種中で最多でした。

業界の規模も押さえておきます。日本のソフトウェア業の市場規模は令和2年時点で約15兆9,791億円、従業者数は約83万7,606人、事業所数は2万5,977か所。このうち従業者4人以下の零細事業所が全体の約40.3%を占めています。

つまり、大手SIerを頂点として、末端の零細事業所まで長大なサプライチェーンが形成されているのが実情です。

なぜこの構造ができたのか

この構造は、誰かが意図的に作ったものではありません。合理的な判断の積み重ねで生まれています。

それぞれの判断には理由があります。問題は、これが積み重なった結果として全体の効率が落ちることです。

発注側にとっての損失

ここが本題です。「中抜き」は下請け側の問題として語られますが、発注企業にとってもコストアップになるという指摘があります。

仕組みは単純です。商流に企業が介在するたびに、契約金額の一部が中間マージンとして各社の取り分になります。階層が増えるほど取り分が積み重なり、末端で実際に手を動かす人に届く原資が小さくなります。

発注側の視点で見ると、こうなります。

払った金額と、受け取る価値のあいだにずれが生じる。 これが発注側にとっての損失です。

さらに、この構造は人材の定着にも影響します。待遇や成長機会を求める優秀なエンジニアは、直接契約や上流企業へ移る傾向があるとされ、下請け企業では離職率が高くなります。育成コストが積み上がらず、技術の承継も難しくなります。

品質と責任の問題

金額以外にも問題が生じます。

情報が届かない。 階層が深いほど、要件の意図が末端まで伝わりません。情報伝達の遅れや担当範囲の曖昧さは、手戻りや納期遅延を招きます。

責任の所在が不明確になる。 細かな業務分担が進むと、トラブル発生時にどの階層で問題が起きたのかを特定しにくくなります。

品質にばらつきが出る。 経験不足の人材が担当することで、成果物の水準が安定しません。長期的にはセキュリティ上の脆弱性や技術的負債が積み上がり、企業の評価にも影響します。

全体像が見えない。 下層に位置するほど、システムのごく一部だけを担当することになります。与えられた作業をこなすだけでは成長機会が乏しく、それがさらに人材の質と定着に跳ね返ります。

制度が動き始めた

この構造に対して、制度面の整備が進んでいます。

2024年11月1日、フリーランス・事業者間取引適正化等法が施行されました。発注側に対し、取引条件の明示、報酬の支払期日の設定、報酬の減額や買いたたきの禁止といった義務が課されています。

さらに2026年1月1日、下請法が大きく改正され「中小受託取引適正化法(取適法)」として施行されました。労務費や原材料費の上昇が続くなか、取引の適正化とサプライチェーン全体での適切な価格転嫁を定着させることが目的とされています。

この改正では、適用対象の判断に従業員数の基準が加わり、これまで資本金規模の要件から外れていた取引も規制の対象に含まれるようになりました。

多重下請けが課題とされてきたIT業界にとって、取引の透明化と対価の適正化を促す制度的な後押しという位置づけです。

発注側にできること

制度が変わっても、発注する側の動き方が変わらなければ構造は残ります。実務的な選択肢を挙げます。

1. 商流の浅い形で契約する。 上流工程を担える人材と直接契約を結ぶことで、中間マージンを排除して報酬を適正化できます。同じ予算でも、確保できる人材の層が変わります。

2. 必要な部分だけを直接調達する。 全体を一括で発注するのではなく、専門性が要る工程だけを個別に確保する。フリーランスや業務委託を柔軟に活用する方法です。

3. 発注側が関与を強める。 丸投げをやめ、要件と判断を自社に残す。何を作るかを決められる人が社内にいなければ、どんな体制でも成果は出ません。

4. 契約と実態を一致させる。 業務委託でありながら日々の指揮命令をしていれば、労働者派遣法上の問題が生じる可能性があります。受け入れ方を決める段階で確認が必要です。

5. 商流を確認する。 提案を受けた際、その人材がどの階層から来ているかを尋ねる。契約前に確認するだけで、判断の材料が変わります。

ただし、直接契約には発注側の負担も伴います。人材の見極め、契約の管理、稼働の把握。これらを担える体制があるかどうかが、実行できるかの分かれ目になります。

※ 本記事は一般的な情報の整理であり、個別の契約に関する法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士等の専門家にご相談ください。

CONSULTATION

IT人材の確保にお困りの企業様へ

イーランサーは、SAP/S4HANA、Salesforce、AWS、Azure、GCP、データ基盤・DWH、BI、AI開発、Java、Python、インフラ・運用保守まで、幅広い領域の即戦力人材をご紹介しています。グループ全体で41万人のITエンジニア・ITコンサルタントが登録し、26年間にわたり蓄積したマッチングデータをもとにご提案します。

ご要件をいただいてから最短即日で候補者をご提案します。ご要件の内容により前後します。ご相談は無料です。

法人向けサービスを見る
案件をお探しの方 人材をお探しの方