IT人材市場

半導体の案件は3種類ある。設計・装置ソフト・工場システムで、必要な技術はまったく違う

イーランサー・ジャパン株式会社

「半導体の案件」とひとまとめに言われることが多いのですが、中身は3つのまったく違う仕事に分かれます。チップの回路を書く仕事、チップを作る装置を動かすソフトを書く仕事、そして工場全体を回すシステムを作る仕事。使う言語も、隣にいる人の職種も、評価のされ方も違います。この記事では、その地図を描いたうえで、各領域で2026年にいま何が動いているのかまで踏み込みます。

3つの領域

半導体は「設計する → 装置で作る → 工場で量産する」という流れで進みます。ソフトウェアエンジニアが関わるのは、おおむね次の3か所です。

①チップを設計する
スマートフォンやAIに使うチップの回路を設計し、正しく動くかを確かめる仕事。
たとえると建物の設計図を描く設計事務所
  • RTL設計:回路をプログラム言語で書く
  • 機能検証:シミュレーションで動作を確認
  • 物理設計:チップ上への配置・配線
  • FPGA開発、出荷前検査の仕組みづくり

必要な技術 Verilog/SystemVerilog、静的解析、形式検証、タイミング収束

②チップを作る装置を動かす
露光・成膜・エッチング・検査といった製造装置を動かすソフトウェアを作る仕事。
たとえると工作機械の制御プログラム
  • 装置制御:温度・圧力・ガス流量・モーター
  • 組込み開発:C/C++、リアルタイム制御
  • 工場システムとの通信(SECS/GEM、EDA)
  • 装置監視、画像処理、AIによる不良検査

必要な技術 C++、組込みLinux、EtherCAT等の産業用通信、SEMI標準

③工場全体を管理する
数百の工程がある工場で、どのウェハーがどの装置で何をされたかを管理するシステムを作る仕事。
たとえると工場の生産管理・在庫管理システム
  • MES(製造実行システム)の構築・改修
  • 製造装置からのデータ収集・連携
  • 生産スケジュールの最適化
  • 歩留まり分析・予知保全・データ基盤

必要な技術 Java/C#/Python、SQL、データエンジニアリング(半導体工程の理解も必要)

3つは工程としては繋がっていますが、人材市場としてはほとんど別の市場です。①から③へ移る人は少なく、求人票の書かれ方も、評価される経歴も違います。以下、それぞれで何が起きているかを見ていきます。

① 設計:いま「検証」が壊れかけている

設計領域で2026年に最も重い数字が、Siemens EDAとWilson Research Groupの機能検証調査(有効回答604名)から出ています。

一発で通るチップが20本に1本。この数字が、EDA各社がエージェント型AIに一斉に舵を切った理由です。

性能向上の主張はいずれもベンダー発表で、測定条件は開示されていません。一方、第三者の評価もあります。32モデル・202タスクで合成まで含めて評価した研究では、best-of-5と単発試行の差が3.7〜22.1ポイントあり、エージェント的な使い方の制約になると指摘されています。別の研究では、LLM生成RTLのエラーの70%超が設計仕様の誤解に起因するとされています。

② 装置ソフト:3Hzと30kHzのギャップ

装置ソフトの領域で、いま標準化が動いている理由は1つの数字で説明できます。

1万倍の開きがあります。このギャップが、EDA(Interface A)のFreeze 3——HTTP/1.1+SOAP/XMLをHTTP/2+gRPC+Protocol Buffersに置き換える改訂——を駆動しています。

もう1つ動いているのがセキュリティです。SECS-IもHSMSも暗号化されておらず、HSMSにTLSを被せる標準化(Ballot 7428/7428A)が進んでいます。2026年に2回否決されましたが、否決理由は証明書検証の詳細不足と手続き上の問題で、技術的なコンセンサスは取れているとされています。

装置内のネットワークはEtherCATが事実上の標準です。2007年にSEMI標準として採択され、現行はSEMI E54.20-0624。EtherCAT Technology Groupの半導体ワーキンググループはマスフローコントローラ、高真空ポンプ、プラズマ/高周波ジェネレータなどのデバイスプロファイルを策定しており、2023年12月時点で24仕様に達しています。

③ 工場システム:MESが「実行コア」に再定義されつつある

工場システムの領域は、MESを中心にプラットフォーム化が進んでいます。

データ量の規模感も出ています。Siemensの説明ではエッチング装置1台あたり1日10〜50GB、200台規模のfabでは1か月でペタバイト級。エッジで特徴抽出し、上位には異常スコアとメタデータだけを送る構成が前提になります。

歩留まり改善や予知保全の効果として語られる数値(「ダウンタイム最大30%削減」など)は、現時点ではほぼすべてベンダーの目標値・主張値です。チップメーカー自身が公表した検証済みの定量効果は、公開情報の範囲ではほとんど見当たりません。

3領域を貫くもの:セキュリティが調達要件になった

3つの領域に共通して効き始めているのが、セキュリティの要件化です。

つまり①で書いたRTLも、②で書いた装置ソフトも、③で組んだデータ基盤も、納入先のセキュリティ要件を満たさなければ売れない。この構造が、半導体分野ではすでに契約条件として定着しつつあります。

どの領域から入るか

3領域は、必要な前提知識と参入のしやすさが違います。

米国の報酬を座標として置いておくと、BLSのComputer Hardware Engineersの年収中央値は161,740ドル(2025年5月時点)、半導体およびその他電子部品製造では166,150ドル。雇用は2025〜2035年で9%増と見込まれています。なお設計検証(DV)に対応する独立した職業分類は存在しません。

出典

本記事は2026年10月27日時点で公開されている情報に基づいています。EDAベンダーが公表している性能向上の数値は、いずれも自社発表で測定条件が開示されていません。E187改訂版のバージョン番号と公開予定日は公表されていません。

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