技術トレンド

小売業のDXとは。6つの領域と、人手不足への対応

イーランサー・ジャパン株式会社

小売業のデジタル化は、人手不足への対応という文脈で加速しています。この記事では、領域ごとの課題と、実際に効果が出ている取り組みを整理します。

小売のDXが指す範囲

小売業のデジタル化は、複数の領域にまたがります。

近年とくに重視されるのが6つ目です。人手不足が構造的な課題となり、少ない人員で運営する仕組みへの需要が高まっています。

実店舗とオンラインの統合

この領域の中心的な課題を整理します。

在庫の一元化。店舗の在庫とオンラインの在庫を別々に管理すると、欠品と過剰が同時に生じます。

顧客情報の統合。店舗で買った人とオンラインで買った人が、同一人物として認識されない状態は珍しくありません。

受け取り方法の多様化。オンラインで注文して店舗で受け取る、店舗で注文して自宅へ配送する。組み合わせが増えるほど、システムは複雑になります。

既存システムの制約。店舗のPOS、在庫管理、会計。長年使ってきた仕組みとの連携が障害になります。

技術的には解決可能ですが、既存資産との整合が実務上の難所になります。

データ活用の実際

小売業は、データが豊富に発生する業界です。

購買履歴、来店頻度、時間帯、天候との関係。これらから需要を予測し、発注や人員配置に反映します。

ただし、データがあることと使えることは別です。店舗ごとに形式が違う、レジと在庫が連携していない、過去のデータが残っていない。

まず整備から始まるのが実情です。

効果が出やすいのは、需要予測による発注の最適化です。食品では廃棄の削減、日用品では欠品の防止に直結します。

数字で効果を示せるため、投資判断がしやすい領域でもあります。

人手不足への対応

この業界の構造的な課題です。

労働人口の減少により、店舗運営に必要な人員の確保が困難になっています。とくに地方と深夜帯で顕著です。

対応の方向は3つあります。省人化(作業を減らす)、自動化(機械に置き換える)、効率化(同じ人数で多くを処理する)。

セルフレジ、電子棚札、自動発注、作業の標準化。いずれもこの文脈で導入が進んでいます。

投資対効果が計算しやすいのが特徴です。削減できる人件費と、導入費用を比較できます。

一方、利用者の受容も条件になります。すべてを無人化すると、支援が必要な顧客に対応できません。

インバウンドという要素

訪日客の増加も、この業界に影響しています。

観光庁の調査では、2025年の訪日外国人旅行消費額は9兆4,559億円で過去最高とされ、買物代も大きな比率を占めます。

対応が必要な項目があります。多言語の表示、決済手段(国によって主流が異なる)、免税の手続き、在庫の変動への対応。

とくに決済は売上に直結します。使いたい手段が使えなければ、購入されません。

買物代では、シンガポール、中国、香港からの旅行者の支出が高いとされ、対象とする客層によって対応の優先順位が変わります。

データを見て判断できるかどうかが、投資の精度を左右します。

この領域で働くこと

最後に、技術者の観点から整理します。

成果が見えやすいのがこの業界の特徴です。売上、廃棄率、来店数。作ったものの効果が数字で分かります。

扱う規模が大きい場合があります。店舗数、商品数、取引件数。データ処理の設計力が問われます。

現場との距離が近い。店舗のオペレーションを理解しないと、使われない仕組みを作ってしまいます。

小売業の実務経験がある人がIT側へ移る場合、大きな強みになります。現場を知る技術者は希少です。

店舗という制約

小売業のシステムには、物理的な店舗という前提があります。

通信が不安定でも動く必要があります。レジが止まれば販売できません。

操作する人が入れ替わる。アルバイトを含む多様な従業員が使うため、教育コストが低い設計が求められます。

端末の制約。古いレジ、限られた画面サイズ、手袋をした状態での操作。

営業時間中に止められない。更新の作業は閉店後になります。

これらの制約は、Webサービスの開発とは大きく異なります。現場を見ずに設計すると、使われない仕組みになります。

実店舗とECの関係

この2つを対立させる見方は、実態と合わなくなっています。

利用者は使い分けています。調べるのはオンライン、買うのは店舗。あるいはその逆。

企業側の課題は、この行動を1人の顧客として把握できないことです。別々のシステムで管理していると、同一人物と認識されません。

在庫も同様です。店舗とオンラインで別管理では、片方が欠品し片方が余る状態が生じます。

統合の効果は明確ですが、既存システムの制約が障害になります。長年使ってきた仕組みを、どう連携させるか。

段階的に進めるほかありません。全面刷新は費用も危険性も大きくなります。

参考文献
  1. 観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年暦年(速報)」

本文中の数値は各調査時点のものです。調査主体により定義や推計方法が異なるため、出典を確認のうえご参照ください。

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