海外IT人材

韓国の開発者「月775万ウォン」をそのまま読むと間違える。法定調査の中身と採用の実務

イーランサー・ジャパン株式会社

韓国のエンジニア採用は、距離の近さと人材層の厚さの両方で合理性があります。ただ、報酬の相場を調べると数字の定義でつまずくことが多い。韓国には法定の賃金調査があり、よく引用されるのですが、その数字は年収でも手取りでもありません。この記事では、公的データの読み方を押さえたうえで、日本企業が韓国のエンジニアを採るときの実務論点を整理します。

韓国のSW人材の規模

科学技術情報通信部とソフトウェア政策研究所(SPRi)による「소프트웨어산업 실태조사」の数値です。

従事者は前年比+7.3%で伸びている一方、R&D集約度は下がっています。人は増えているが、研究開発への投資比率は落ちているという構図です。

教育水準の高さも押さえておく価値があります。ジェトロの調査によれば、韓国の高等教育修了率(25〜34歳、2022年)は69.6%でOECD最高です。

上記の従事者数は報道経由の数値です。SPRiの原典ページには数値本体が掲載されておらず、報告書PDF本体での確認はできていません。

法定の賃金調査:数字の定義に注意

韓国にはソフトウェア振興法に基づく法定調査「SW기술자 임금실태조사」があります。これが韓国IT人材の報酬を語るときの一次情報です。

職務別の月平均賃金です。

ここが最も重要な注意点です。この「平均賃金」は、基本給+諸手当+賞与+退職給与引当金+四大保険の事業主負担分を含む金額です。

つまり本人の手取りでも、求人票の年収でもありません。公共SW事業の積算単価として使われる「人件費単価」です。「韓国の開発者は月775万ウォン=年9,300万ウォン稼ぐ」と読むのは誤りで、採用時の提示額の参考にはそのまま使えません。

上昇率の上位職務も公表されています。IT품질관리자+14.5%、IT테스터+14.1%、IT감리+14.0%、IT컨설턴트+10.9%、IT PM+10.8%、데이터분석가+10.2%(ITSQF基準17職種中)。品質管理・テスト・監理が伸びているのは、開発そのものより検証と統制の需要が増えていることを示唆します。

日本で働く韓国人の実態

労働政策研究・研修機構(JILPT)が韓国労働研究院の調査をもとに整理した数値です。

情報通信業で働く外国人全体が97,924人(令和7年10月末、厚労省)なので、その約1割が韓国人という計算になります。全産業での韓国人の構成比は3.1%ですから、IT分野に偏って就労していることが分かります。

入管庁の在留資格別では、技人国の韓国人が2019年27,388人→2021年22,652人(コロナで減)→2023年24,125人。高度専門職の韓国人は2019年589人→2023年919人です。

韓国側の送り出し支援

韓国政府は海外就職を政策として支援しています。事業名は「K-Move」、ポータルは「ワールドジョブプラス」。東京・大阪・名古屋にK-MOVEセンターが設置されています。

ジェトロの調査では、韓国産業人力公団ベースの海外就職者数は2016年4,811人→2019年6,816人→2020年4,400人→2021年3,727人→2022年5,024人。2022年の国別内訳は米国1,514人、日本1,154人、シンガポール240人です。

業種内訳(韓国貿易協会、2017年、n=137)ではIT 90人(65.7%)、営業13人、人事5人。古いデータですが、韓国から日本への就職がIT中心であることを示しています。

なぜ韓国人材は日本に来るのか

ジェトロの調査からは、韓国側の事情も読み取れます。

満足と答えた層が合計57.8%。一方で不満足が15.5%あり、手放しで良い結果とは言えません。

同報告書は、不一致の原因として日本企業の「新卒一括採用・ポテンシャル重視・OJT育成」が韓国の採用慣行と異なる点を指摘しています。

韓国では職務を特定して採用し、入社時点で即戦力であることが前提になります。「まず現場を覚えてもらう」という日本型の育成は、採用時の約束と違うと受け取られうる。これは在留資格の観点でも問題になります。研修名目でも対象外業務に長期間従事する場合は、技人国の不許可事由になりうるからです。

実務でやること

  1. 賃金の比較は定義を揃える。KOSAの調査は事業主負担分を含む人件費単価。提示額の参考にするなら、韓国の求人票の年収水準と比較するほうが実態に近い
  2. 職務を特定して提示する。何をする仕事かを明確にする。ポテンシャル採用の文脈は通じにくく、在留資格の審査でも職務の専門性が問われる
  3. 育成計画を書き出す。OJTを行うなら、それが技人国で許容される実務研修の範囲に収まっているかを確認する
  4. 高度専門職の可能性を確認する。韓国の高度専門職在留者は2025年末で1,234人と、中国の22,169人に比べて圧倒的に少ない。学歴水準を考えると、要件を満たす候補者はもっといるはず
  5. K-Moveの枠組みを知っておく。東京・大阪・名古屋にセンターがあり、2024年には1,531人がこの経路で日本に就職している

韓国人材の日本での離職率・定着率に関する公的データ、および韓国人固有のビザ取得上の障害については、公表資料では確認できませんでした。

なぜ韓国なのか、を構造で説明する

最後に、韓国を採用先として検討する理由を数字で整理しておきます。感覚ではなく条件の問題です。

  1. 人材層の厚さと教育水準。SW産業従事者が約641,600人、中核SW専門人材が約504,500人。25〜34歳の高等教育修了率は69.6%でOECD最高
  2. 日本語の基盤。JLPTの韓国内受験者は2023年に72,466人。ソウルだけで34,921人。学習インフラが整っている
  3. 送り出しの仕組みがある。K-Move経由の2024年海外就業者5,720人のうち日本が1,531人(27%)。東京・大阪・名古屋にセンターがある
  4. 時差と距離。時差なし。渡航も短時間。面談も、入社後の往来も負担が小さい
  5. 高度専門職の余地。韓国籍の高度専門職在留者は2025年末で1,234人。中国の22,169人に比べると、制度の活用余地が大きい

一方で、注意すべき点も明確です。

結論として、条件は良いが、日本型の採用慣行をそのまま持ち込むと噛み合わないというのが実態に近い。職務を明確にし、入社後にやることを具体的に示す——それだけで差がつく市場です。

出典

本記事は2026年10月27日時点で公開されている情報に基づいています。韓国側の統計の一部は報道経由で、原典の報告書本体では確認していません。

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