インドのIT産業とは。規模・構造・日本企業との関わり方
インドのIT産業は、規模において日本とは桁が異なります。この記事では、公表されている数字をもとに、産業の構造と、日本企業がどう関わりうるかを整理します。
産業の規模
業界団体NASSCOMの評価によれば、インドのIT産業は2025年度に2,830億ドルの収益を見込み、前年比5.1%の成長とされます。
輸出収益が2,000億ドルを超え、国内収益は600億ドルという内訳です。輸出が7割以上を占める構造が、この産業の性格を示しています。
従事者数は過去最高の580万人に達する見通しで、2025年度に12万6,000人の新規雇用が生まれるとされます。
エンジニア数の比較では、2023年時点でインドは約340万人とされ、米国(445万人)に次ぐ2位、日本の約2.4倍という調査もあります。
規模において、日本とは桁が異なる市場だという点が出発点になります。
なぜIT大国になったのか
この規模に至った背景には、複数の条件が重なっています。
- 英語/英語で業務ができる人材が多く、欧米企業との取引に障壁が小さい
- 時差/米国との時差を活かし、24時間開発を回す体制が組める
- 人件費/当初は費用の優位が明確だった。現在は上昇しているが、なお差がある
- 理工系教育/工科大学の層が厚く、毎年大量の技術者が供給される
- 政府の政策/デジタル・インディア構想など、国を挙げた育成と誘致
とくに1つ目と2つ目が、他国にない優位でした。欧米企業が業務を外部委託する先として、条件が揃っていたことになります。
受託から製品へ
産業の性格は変化しつつあります。
従来は、欧米企業から受託して開発する形が中心でした。指示された仕様に沿って作る、費用の安い開発拠点という位置づけです。
近年は、自社製品やサービスを持つ企業が増えています。政府も「国家ソフトウェア製品政策」を掲げ、製品開発国への転換を目指しているとされます。
もうひとつの変化がGCCです。グローバル企業が、インドに自社の開発拠点を直接設ける形です。外部委託ではなく、自社の中核機能をインドに置く動きになります。
この変化は、扱う仕事の質が上がっていることを意味します。単価の低い受託から、設計や研究開発を担う立場への移行です。
AI領域での位置づけ
AIの普及は、この産業に両面の影響を与えています。
脅威の側面。定型的な開発作業は自動化が進みます。人数を投入して開発する従来の形は、優位が縮小します。
機会の側面。NASSCOMの調査では、企業幹部の82%が2025年にデジタル支出を5%以上増やす計画とされ、需要そのものは拡大しています。
政府も投資を進めており、2025〜26年度予算でAI導入の加速に200億ルピー、教育分野のAI拠点設立に50億ルピーが配分されたと報じられています。
人数の優位から、技術の優位への転換が課題になっている、という構図です。
日本企業との関係
日本企業がインドと関わる形を整理します。
オフショア開発。開発の一部を委託する形です。ただし、日本語での仕様のやり取りが障壁になる場合があります。
開発拠点の設置。自社の拠点を置き、直接雇用する形。人材確保の選択肢として検討されます。
インド人材の日本での採用。来日して働いてもらう形です。在留資格や生活支援の準備が必要になります。
インド市場への進出。顧客としてのインド。IT産業がGDPに占める割合は2025年度に10%に達すると予想されており、市場としての規模も拡大しています。
いずれの形でも、英語での業務が前提になります。ここが日本企業にとっての最大の障壁です。
取引時の留意点
実際に協働する場合の注意点を整理します。
仕様の明示。暗黙の了解は通じません。書かれていないことは実装されないと考えるべきです。
離職率。技術者の転職が活発で、担当者が入れ替わる前提で体制を組む必要があります。
費用の上昇。優秀な人材の単価は上昇しており、単純な費用削減目的では期待どおりにならない場合があります。
時差と休日。日本との時差は3時間半で、実は協働しやすい範囲です。ただし祝日は異なります。
品質のばらつき。企業と担当者によって差が大きく、選定が結果を左右します。
日本から見た意味
最後に、この市場をどう捉えるべきかを整理します。
競合ではなく、補完の関係として見るほうが実務的です。日本のIT人材不足は2030年に最大約79万人と試算されており、国内だけでは埋まりません。
ただし、単純な下請けとしての活用は成立しにくくなっています。インド側の技術水準と単価が上がり、欧米企業との競争もあります。
選ばれる発注元になれるかどうかが問われます。仕様が明確で、意思決定が速く、対等に扱う企業でなければ、優秀な人材は集まりません。
この構造は、国内での外部人材の活用とも共通します。受け入れ側の設計が結果を決める、という点で同じです。
拠点となる都市
インドのIT産業は、特定の都市に集中しています。
ベンガルール(バンガロール)。最大の集積地で、多国籍企業の開発拠点が集まります。「インドのシリコンバレー」と呼ばれます。
ハイデラバード。大手ソフトウェア企業の拠点が置かれ、近年成長が著しい都市です。
プネー、チェンナイ、グルガオン。それぞれに企業の集積があります。
ケララ州など、生活環境と費用の面から新たな候補として挙げられる地域もあります。
拠点によって、人材の獲得競争の激しさと単価が異なります。主要都市ほど競争が激しく、離職率も高くなる傾向があります。
GCCという形態
近年の重要な変化が、GCC(グローバル・ケイパビリティ・センター)です。
外部の企業に委託するのではなく、自社の拠点を現地に設ける形です。従業員は自社が直接雇用します。
利点は、知識が自社に蓄積することです。委託では、担当者が替われば知見が失われます。
また、担う業務の幅が広がります。単なる開発だけでなく、設計、研究開発、データ分析、経理や人事といった管理業務まで移す例があります。
日本企業の設置例はまだ限られます。英語での運営が前提となるため、障壁が高くなっています。
一定以上の規模がある場合、委託より有利になる可能性がある選択肢です。
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