外部人材・業務委託

現地法人なしで雇う。EORの月599ドルに何が含まれ、何が含まれないのか

イーランサー・ジャパン株式会社

海外のエンジニアに来てもらうのではなく、現地にいるまま働いてもらう。この形を可能にするのがEOR(Employer of Record)です。現地法人を作らずに雇用できる一方で、料金表に出てこないコストと、消えないリスクがあります。この記事では、仕組みと価格、そして実務で詰める必要がある論点を整理します。

EORとは何か

EORは、現地法人を持たない企業に代わってEOR事業者が現地の法律上の雇用主となる仕組みです。

似た言葉との区別も押さえておきます。

要するにEORは、「雇用の器」だけを借りるサービスです。働く人は発注側の指示で動き、契約上の雇用主は別の会社という構造になります。

価格:月599ドルが相場

主要事業者が公表している価格です(2026年時点)。

課金方式は2通りあります。1名あたり月額固定(概ね300〜800ドル)か、給与の15〜30%。加えて初期費用が発生する場合があります。

ここで重要なのは、この金額はEOR事業者の手数料だけだということです。実際に発生するコストは次の合計になります。

  1. 給与本体
  2. 現地法定の雇用主負担(社会保険料等)
  3. EOR手数料(月599ドル前後)
  4. 初期費用(発生する場合)

2番目は国によって大きく変わります。国によっては給与の30%を超えることもあり、手数料より雇用主負担のほうが大きいケースも珍しくありません。

価格はいずれもベンダー自身が公表しているもので、競合他社の価格は各社の公開価格ページ由来と注記されていますが、独立した検証は示されていません。

市場の規模

民間調査会社の推計です。

業種別でIT・通信が最大というのは、この仕組みがエンジニア採用のために使われていることを示しています。

実際の利用データも、ベンダー側から出ています。100万件超の雇用契約、37,000社超、150カ国超のデータによれば、1億ドル超を調達したスタートアップは2025年に1,400人超を越境採用し、うち28%がソフトウェア開発者。EOR越境採用の職種トップはソフトウェア開発者、セールスマネージャー、ビジネスデベロッパーの順です。

もう1つ目を引くのが、AIトレーナーの越境採用が2025年に+283%(70,000人超/600組織超、時給15〜75ドル)という数字です。新しい職種が、最初から越境前提で立ち上がっている。

市場規模は民間調査会社の推計で、算出根拠は非公開です。同種のレポートは調査会社ごとに数値が大きく異なります。利用データはベンダー発表です。

残る論点1:偽装請負

EORの構造には、日本の労働法上の論点が残ります。

雇用契約はEOR事業者と結ばれ、業務の指揮命令は発注側が行う。この形は、日本国内であれば労働者派遣か、さもなければ偽装請負として問題になる構造です。

海外に所在する労働者の場合、適用される法令は現地法が基本になりますが、どちらの法が適用されるかは契約の内容と実態で変わりうる。実務解説でも、アグリゲーター型(現地パートナー経由)より自社エンティティを持つ「ダイレクト型」EORが推奨され、偽装請負リスクについて弁護士レビューを勧める記述が見られます。

デメリットとして挙げられているのは、雇用関係の不明瞭さ、労働紛争時の対応速度、そして人数増加に伴うコスト増です。

一般的な整理としては、人数が少ないうちは現地法人設立よりコスト効率が良く、人数が増えると逆転するとされています。何人で逆転するかは国と給与水準によるため、試算してから判断する領域です。

残る論点2:恒久的施設(PE)

もう1つ、税務上の論点があります。EORを使えば現地法人は不要ですが、発注側に現地で恒久的施設(PE)が認定されるリスクがゼロになるわけではありません。

国税庁はPEを3類型で整理しています。

  1. 事業の拠点型:事業の管理を行う場所、支店、事務所、工場、作業場など、事業を行う一定の場所
  2. 長期建設工事等型:建設・据付けの工事またはその指揮監督の役務を1年を超えて行う場所
  3. 契約締結代理人等型:国内に置く代理人等で、事業に関して反復して契約を締結する権限を持つ者、または契約締結のために反復して主要な役割を果たす者

重要なのは判定の考え方です。国税庁は「形式的に行うのではなく機能的な側面を重視して判定することになります」と明記しています。

つまり、EORとの契約書に何と書いてあるかではなく、実態として何をしているかで判断される。現地の人材が契約締結に関与しているなら、3番目の類型に該当する可能性が出てきます。

また、租税条約に国内法と異なる定めがある場合は条約上のPEが適用されます。国ごとに結論が変わる領域です。

EORを使った場合のPE認定リスクについて、公的機関(国税庁、OECD等)の明示的な見解は今回の調査では確認できませんでした。上記はPEの一般的な判定基準からの整理であり、個別の判断は税理士・弁護士にご確認ください。

現地法人・EOR・業務委託の使い分け

選択肢を並べて比較します。

選択の軸は、「指揮命令が必要か」と「何人か」の2つです。

指揮命令が必要で少人数ならEOR。指揮命令が不要なら業務委託のほうが軽い。人数が増えるなら現地法人。コアメンバーとして長く働いてもらうなら日本に呼ぶ。

実務では併用になることが多く、その場合は契約形態ごとにできること・できないことを現場に周知することが必要になります。業務委託の相手に日々の指示を出してしまう、というのが最も起きやすい事故です。

そもそもリモートで成立するのか

EORを検討する前提として、リモートでの開発が定着しているかどうかをデータで確認しておきます。

米国の在宅勤務を2020年5月から毎月追跡している学術調査によれば、有給フルデーに占める在宅勤務の割合は2025年9月時点で約26%(N=309,212)。2023年頃から横ばいで安定しています。

オフィス側の計測でも同じ傾向です。2,600棟超を対象とした計測でオフィス稼働率は2020年2月比で約35%減、700棟超を対象とした別の計測では出勤日あたり訪問数が2019年Q1比で約30%減。いずれも回復後に頭打ちになっています。

業種別ではテック・金融が在宅率最高、医療・製造が最低。若い企業ほどリモートを許容する傾向も報告されています。

完全リモートの組織での対照実験では、月1回の対面イベントで生産性+7.8%、離職率3分の1減、費用対効果6:1という結果も出ています。完全リモートか完全出社かではなく、どれくらいの頻度で会うかの設計問題だということです。

経営層の関心も移っています。2026年の大手会計事務所によるCEO調査(世界1,400人、年商5億ドル超)では、「オフィス復帰への抵抗」を人材課題に挙げたCEOは英国で21%にとどまり、課題リストの5位。トップはスキルギャップ、2位はAIのリスキリングです。

よく引かれる「6割のCEOが完全オフィス回帰を予測」は2023年または2024年の調査の数字です。最新版では論点が置き換わっています。

出典

本記事は2026年10月27日時点で公開されている情報に基づいています。価格・市場規模・利用データはベンダー発表および民間調査会社の推計です。労働法・税務の判断については専門家にご確認ください。

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