クラウド・インフラ

8ノードで統合メモリ1TB——753Bモデルをローカルで回したときの実測値

イーランサー・ジャパン株式会社
この記事の要点

NVIDIAは2026年10月22日、小型のAI計算機DGX Sparkを8台つないだ構成の実測値を公開しました。1台128GBのメモリを合わせて1TBとなり、7,530億パラメータの大型モデルGLM 5.3が、数値を圧縮した形式の約470GBで収まります。同じ8台でも接続方法で差が出て、専用機器を介する構成は毎秒52.58トークン、機器を使わず数珠つなぎにする構成は40.11トークンでした。本体は128GB版が6,950ドルです。

用語の説明
  • パラメータ/AIの中身を作っている数値の一つ一つで、数が多いほど規模が大きくなります。
  • トークン/AIが文章を扱うときの細かい単位で、処理の速さはこの数で表されます。
  • メモリ/計算に使うデータを一時的に置く部品で、容量が足りないと大きなAIは動きません。

「フロンティア級モデルをオンプレで回す」という話は、これまで見積もりが立ちませんでした。NVIDIAが公開した8ノードクラスタの実測値は、そこに具体的な数字を与えています。載るかどうかだけでなく、何がボトルネックになるかまで表に出ているのが要点です。

要点

何が起きたか

NVIDIAが2026年10月22日、技術ブログ「Running Frontier-Class AI Models Across 8 NVIDIA DGX Spark Nodes」を公開しました。8ノード対応は10月21日のGTC Berlin基調講演に合わせた発表です。

ノード間接続はDGX Spark内蔵のConnectX-7をRoCEで使い、トポロジは3種類用意されています。

構成管理はNVIDIA SyncのCluster Assistantですが、Sync側の8ノード対応は「年内」とされており、現時点では手動構成が前提です。

推論スタックはvLLM。集合通信はNCCLが既定で、Spark向けall-to-allバックエンドRoCEnanteがFlashInferにマージされ、起動テスト失敗時はNCCLへフォールバックします。ルーティングはNeMo Switchyardが担います。

753Bが「載る」とはどういうことか

1TBの統合メモリに対し、GLM 5.3はNVFP4量子化で約470GB。MTP3(マルチトークン予測)付きで提供されます。

入力8,000トークンでの実測は次のとおりです。

プレフィルは同時実行数に関係なく一定で、デコード側が律速します。GLM 5.3 Flashなら8ノードで約80 TPSとされています。

この数字の読み方は用途で分かれます。ユーザーあたり18 TPSは、対話UIの応答速度としては厳しい。一方、バッチ処理や常時稼働のエージェントなら成立します。

効くのはノード数より、スイッチの有無

実務上いちばん効くのはトポロジの選択です。Qwen3.8-27B(NVFP4、同時実行1、入力8,192/出力256、投機デコードとMTPなし)の実測値を並べます。

構成プレフィル TPSデコード TPS倍率
1ノード2,63511.861.00
2ノード・ダイレクト3,28521.711.84
4ノード・物理リング4,44632.822.77
4ノード・スイッチ4,55636.343.06
8ノード・物理リング4,96240.113.38
8ノード・スイッチ5,10552.584.43

8ノードのスイッチレスのリングは40.11 TPS。4ノードのスイッチ接続(36.34 TPS)とほとんど変わりません。つまりスイッチなしでノードを4台から8台へ倍増させても、伸びは約1.2倍しか取れない。

RoCEnante自体の寄与も数字が出ています。8ノードのデコードスケーリングが3.05倍から4.43倍へ、4ノードで2.56倍から3.06倍へ。ただしスイッチ接続のみ対応で、NVIDIAは高同時実行・大規模クラスタ・リング構成ではNCCLを推奨しています。

モデルを混ぜる:Switchyardの数字

ルーティング側にも実測があります。Qwenレプリカ3つ(各2ノード)とMiniCPMレプリカ2つ(各1ノード)をSwitchyardで並べた構成です。

精度を落とさずにスループットを3倍にできた——という読み方になります。1クラスタ=1モデルという置き方が、必ずしも最適ではないことを示す数字です。

学習側は素直に伸びる

nanochat(約896.5Mパラメータ、データ並列)での測定です。小規模な事前学習や継続事前学習なら、8ノードがほぼ線形に効く。推論側のトポロジ依存とは対照的です。

なぜ日本でまだ語られていないのか

一次ソースがNVIDIAの開発者ブログに閉じているためです。「8ノードで1TB」という見出しは英語圏・中国語圏のメディアが拾っていますが、上のスケーリング表とRoCEnanteの比較値を載せているのはNVIDIA自身のブログと一部の技術系サイトだけで、多くの二次媒体はメモリ容量と対応台数しか書いていません。

日本語側は10月上旬の価格改定までは報じられましたが、8ノード対応と実測値の記事は確認できませんでした。

エンジニアにとって何が変わるか

①調達

オンプレ推論の見積もりが現実的に書けるようになりました。128GB版は6,950ドル(発売時は3,999ドル、メモリ価格の高騰で上昇)。8ノードなら単純計算で約5.6万ドルで、これで753Bが同時実行8・ユーザーあたり18 TPSです。

外に出せないデータや、トークン課金が読めない常時稼働エージェントなら、比較表に載る水準になります。同時期に64GB版が4,999ドルで追加されており、1TBを狙うなら128GB版8台が条件です。

②設計

スイッチの有無が分岐点になります。スイッチレスのリングでは8ノードにしても4ノードから約1.2倍しか伸びないため、ノードを増やす前にスイッチの予算を確保するという順序になります。

もう一つは、1クラスタ=1モデルではなくSwitchyardでモデルプールを混在させる設計です。精度を保ったままスループットを3倍にした実測がある以上、検討の価値があります。

③キャリア

問われるのはモデルを使う力ではありません。RoCE、NCCL、集合通信バックエンド、量子化フォーマット、投機デコードといった分散推論のインフラ側の知識です。マネージド推論ではこの層は見えません。

1TBクラスのローカル推論を設計・チューニングできる人材は、データ主権の制約が強い金融・医療・公共の案件でそのまま値段がつきます。

確認できなかった点

出典

本記事は2026年10月22日時点で公開された情報に基づいています。数値はNVIDIAの技術ブログの内容を、独立した二次ソースで照合したうえで記載しました。価格・提供構成は変更される可能性があります。

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