基礎知識

AI普及率は何で測るのか。数字の読み方と、社内で使える指標

イーランサー・ジャパン株式会社

「日本のAI普及率は◯%」という数字をよく見かけますが、何を測ったものかで意味は大きく変わります。この記事では、公的統計がどの指標を出しているのかを整理し、社内で実態を測るには何を見ればよいかを考えます。

3つの異なる「普及率」

報道で使われる普及率は、少なくとも3種類あります。混同すると議論が噛み合いません。

同じ「普及率」でも、どれを指すかで数字が倍以上違います。引用するときは、必ず定義を確認する必要があります。

公的統計が示す数字

総務省の令和7年版情報通信白書から、それぞれの数字を挙げます。

個人の利用経験率は、日本26.7%。米国68.8%、中国81.2%と比べて低い水準です。年代別では20代が44.7%で最も高いとされます。

企業の業務利用率は、何らかの業務で生成AIを利用していると回答した割合が日本で55.2%。「メールや議事録、資料作成等の補助」に使っている割合は47.3%とされます。

方針策定率は、「積極的に活用する方針」「活用する領域を限定して利用する方針」を定めている企業が49.7%(2024年度調査)。前年度の42.7%から増加していますが、他国より低い傾向が続きます。

企業規模別に見ると、中小企業では「方針を明確に定めていない」が約半数を占めるとされます。

個人26.7%と企業55.2%のずれ

この2つの数字は矛盾しているように見えますが、測っている対象が違います。

個人調査は一般の生活者を対象にしており、仕事で使わない人も含みます。企業調査は企業に所属する回答者を対象とし、業務での利用を聞いています。

つまり、「働いている人のあいだでは半数以上が使っているが、社会全体では4人に1人」という状態です。

この差は、AIが仕事の道具として先に広がり、生活の道具としてはこれからだということを示します。職場での経験が、個人利用の入口になるという順序が見えます。

数字が独り歩きする理由

普及率の数字を扱うときの注意点が3つあります。

調査方法による差。インターネット調査では、回答者にネット利用者が偏ります。回答者の属性が数字を左右します。

時点の差。この分野は変化が速く、1年前の調査は現状と乖離している可能性があります。引用する際は必ず調査時点を確認してください。

「使っている」の定義。週に1度触った人と、毎日業務に組み込んでいる人が、同じ1件として数えられます。頻度と深さが見えません。

国際比較はとくに慎重に扱うべきです。調査主体や質問文が異なれば、単純に並べることはできません。

社内で測るなら4つの指標

自社の実態を知りたい場合、外部調査の数字は参考にしかなりません。測るべきは次の4つです。

①と②の差が最も重要な情報です。アカウントは配ったが使われていない状態は珍しくありません。この差が大きい場合、原因は教育か、業務に合っていないかのどちらかです。

③は普及の深さを示します。「使える人がいる」から「業務に組み込まれている」への移行が、成果につながる段階です。

指標にしてはいけないもの

測りやすいという理由で選ばれがちな、意味の薄い指標があります。

プロンプトの入力回数。多く入力する人が成果を出しているとは限りません。むしろ、うまく使える人ほど回数は少なくなります。

研修の受講率。受けたかどうかと、使えるかどうかは別です。

導入ツールの数。多ければよいものではなく、むしろ管理と教育の負担が増えます。

指標が行動を変えることを忘れないでください。入力回数を評価すれば、意味のない入力が増えます。

数字をどう使うか

最後に、普及率を何のために測るのかを整理します。

外部の数字は自社の位置を知るために使います。業界平均より遅れているなら、それは競争上の課題です。逆に先行しているなら、優位が続く期間は限られると考えるべきです。

社内の数字は次の打ち手を決めるために使います。①と②の差が大きければ教育、③が伸びなければ業務設計、④が出なければ対象業務の選定を見直します。

数字そのものを目標にすると、実態と乖離します。普及率90%を目指すのではなく、業務のどこが速くなったかを見るほうが、経営の判断材料としては有用です。

普及率の測り方は変わってきた

技術の普及を測る指標は、その技術の性質によって変わってきました。

パソコンは世帯保有率で測られました。持っているかどうかが明確だったためです。

インターネットは利用率で測られるようになりました。接続環境があっても使わない人がいたためです。

スマートフォンでは、保有率に加えて利用時間や用途が見られるようになりました。

AIは、この延長線上でさらに測りにくくなっています。意識せずに使っている場合があるためです。検索結果の要約、翻訳、文章の予測変換。これらをAI利用と認識していない人は、調査で「使っていない」と答えます。

つまり、自己申告による利用率は実態より低く出る可能性があります。数字を読むときの留意点です。

目標値をどう置くか

社内で目標を設定する場合、注意点があります。

利用率100%は目標として適切ではありません。業務によっては使う必要がなく、無理に使わせれば形だけの利用が増えます。

現実的な置き方は3段階です。第一段階は、使える状態を全員に用意する(アカウント配布と最低限の教育)。第二段階は、業務に組み込む数を増やす(定常業務のうち何件か)。第三段階は、時間の削減量で測る

段階を飛ばして時間削減だけを目標にすると、報告のための数字が作られます。順序を守ることが、実態に合った測定につながります。

参考文献
  1. 総務省「令和7年版 情報通信白書(個人におけるAI利用の現状)」
  2. 総務省「令和7年版 情報通信白書(企業におけるAI利用の現状)」

本文中の数値は各調査時点のものです。調査主体により定義や推計方法が異なるため、出典を確認のうえご参照ください。

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