日本にいながら世界と働く。海外案件と、海外企業の日本進出という2つの入口
海外で働くには、移住して就労ビザを取る。そう考えられてきましたが、いまは前提が変わりました。日本に住んだまま海外のプロジェクトに関わる道と、日本に来る海外企業を支援する道。この記事では、この2つの入口を比べ、それぞれで何が求められ、何が身につくのかを整理します。
2つの入口
「グローバルな仕事」といっても、方向が2つあります。混同されがちですが、必要なものがまったく違います。
| 海外案件に参加する | 日本進出を支援する | |
|---|---|---|
| 顧客 | 海外企業 | 日本に来る海外企業 |
| 働く場所 | 日本(リモート) | 日本(国内案件と同じ) |
| 使う言語 | 英語が中心 | 日本語+英語 |
| 求められる知識 | 技術と、相手国の商習慣 | 技術と、日本の制度・商習慣 |
| 難所 | 時差と非同期の伝達 | 本国への説明 |
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注目すべきは、後者では「日本を知っていること」そのものが価値になる点です。英語力より、日本の制度と商習慣を説明できるかが問われます。
海外案件に、日本から参加する
まず制度面を確認します。日本の就労ビザは「日本国内で報酬を得る活動をする外国人」を対象とするものです。日本人が日本に住んだまま海外企業の仕事をする場合、相手国の就労ビザは原則として不要になります。
働き方が変わった背景には、リモートワークの定着があります。物理的に同じ場所にいなくても開発が進む前提が共有されたことで、採用の対象を国内に限る理由が薄れました。
この道で身につくものを挙げます。
- 非同期で伝える力/時差があるほど、同期のやり取りに頼れません。文書で正確に伝える技能が磨かれます
- 暗黙の前提を言語化する力/日本のチームでは説明不要だったことを、書き出す必要が生じます
- 技術情報への直接アクセス/最新の一次情報は英語で流通します。翻訳を待たずに取りにいけるようになります
- 相場観の広がり/報酬水準は国によって異なります。自分の技能が別の市場でどう評価されるかを知れます
難しい部分もあります。時差の大きい相手だと重なる時間が数時間しかなく、判断待ちで作業が止まることがあります。契約形態、税務、社会保険の扱いも、国によって異なるため事前の確認が必要です。
海外企業の日本進出を支援する
もうひとつの入口です。働く場所も言語環境も国内案件と大きく変わらないため、始めやすい面があります。
この仕事で発生する課題は、はっきりしています。
制度への適合。 日本の会計基準、消費税、インボイス制度、源泉徴収。会計や人事のシステムは制度の塊であり、本国の仕組みをそのまま使うことはできません。
取引の作法への対応。 締め日と支払サイクル、請求書の様式、押印や書面の慣行、検収の考え方。本国では自動化されている工程が、日本では人手を前提としていることがあります。
日本語対応の実務。 表示の翻訳だけでは終わりません。氏名の姓名の順、フリガナ、住所の階層、和暦、全角文字の扱い。データベースの設計段階から影響します。
期待される対応水準。 障害時の連絡の速さ、説明の丁寧さ、書面での報告。技術的には同じ品質でも、求められる作法が違います。
この仕事で最も価値を持つのは、「なぜ日本ではこうなのか」を本国側に説明できることです。理由が分からなければ、本国側は「不要なカスタマイズ」としか受け取りません。制度上の必然なのか、単なる慣習にすぎないのかを切り分けて伝える必要があります。
どちらが自分に合うか
判断の材料を挙げます。
海外案件が向く人
- 英語で読み書きすることに抵抗がない
- 時間の裁量が大きく、時差に対応できる
- 自律的に判断して進められる
- 技術そのものへの関心が強い
日本進出支援が向く人
- 日本の業務システム(会計、人事、販売など)の経験がある
- 制度や商習慣を理解し、説明できる
- 調整や折衝を苦にしない
- いまの働き方を大きく変えたくない
後者は、日本での実務経験が長い人ほど有利です。 若手より、業務システムを長く扱ってきた層に向いています。
共通して必要になること
方向が違っても、求められる基礎は重なります。
- 英語の読み書き/議論は通訳を挟めても、コードレビューのコメントやドキュメントは日常的に発生します
- 非同期での伝達/「聞けばすぐ分かる」が通用しない環境での書き方
- 設計意図を残す習慣/コードだけでは、なぜその判断をしたかが伝わりません
- 標準と個別の線引き/どこまで共通の仕組みで、どこから個別対応か
- 制度と慣習の切り分け/守らなければならないことと、変えられることの区別
とくに最後の項目は、この領域の核心です。「昔からこうしている」という理由しかない作業を制度上の必然と誤認すれば、無駄なコストが積み上がります。逆に法令上の要件を慣習と見誤れば、稼働後に大きな問題になります。
最初の一歩
いきなり海外案件に飛び込む必要はありません。段階を踏めます。
- 英語で情報を取る習慣をつける/公式ドキュメントを翻訳を挟まずに読む。ここから始まります
- 既存案件の中で機会を探す/海外拠点との連携、多拠点対応、外資系企業の日本法人向け案件
- 非同期の書き方を練習する/国内案件でも、文書で正確に伝える訓練はできます
- 業務知識を整理する/自分が扱ってきた業務の、制度と慣習を切り分けておく
この領域の人材が不足しているのには、構造的な理由があります。国内案件だけを担当していれば経験は積めず、越境案件は数が限られるため経験者が増えにくいという循環です。
裏を返せば、一度この経験を積むと、代わりが見つかりにくい立場になります。 企業の海外展開もクロスボーダーのM&Aも継続的に発生しており、需要が途切れる性質のものではありません。
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