採用予算がないスタートアップの勝ち筋。段階ごとに開発体制をどう作るか
正社員のエンジニアを採用したいが、報酬でも知名度でも大手に勝てない。この状況は資金調達前後のスタートアップに共通します。しかし、正面から採用競争に挑む以外の道はあります。この記事では、フェーズごとに何を優先すべきかを整理し、外部人材をどう組み合わせるか、その際の難所は何かを実務的に扱います。
なぜ採用競争に勝てないのか
スタートアップが正社員エンジニアの採用で不利になる理由は、報酬だけではありません。
- 時間がかかる/採用に1〜2か月かけているあいだにも状況は変わり、資金は減り、期限は迫ります
- 役割が定まらない/内定を出したときと入社時で、役割や環境が変わってしまうことが日常的に起こります
- 知名度がない/候補者にとって、事業内容もリスクも判断しにくい状態です
- 母集団が小さい/そもそも応募が集まりません
とくに1つ目が本質的です。スタートアップの鉄則は速く動くこととされます。計画に時間をかけるより早く実行して結果を見たほうが、次の判断の精度が上がるためです。その原則と、採用に数か月かける行為は矛盾します。
また、役割が変わることについては、採用時に隠さず伝えるべきだという指摘があります。バラ色の説明をせず、リスクを理解したうえで参加してもらうことが、双方にとってのリスク回避になるという考え方です。
発想を変える
採用が難しいなら、問いを変えます。
「エンジニアを何人雇うか」ではなく「いま必要な力を、どれだけの期間、どう確保するか」という問いです。
この違いは大きく効きます。正社員採用は、長期の固定費と、長期の関係を前提とします。一方、事業の初期は何が必要かが数か月単位で変わります。 前提が噛み合っていません。
実際、シード期のスタートアップではいきなり正社員で採用するのは難易度が高く、副業や業務委託でまず関わってもらい、いずれ正社員になってもらうという進め方が広く採られています。
これは妥協ではなく、フェーズに合った選択です。お互いを知ったうえで正社員化するほうが、ミスマッチも減ります。
シード期にやるべきこと
この段階の目的は明確です。プロダクトを世に出し、顧客を獲得すること。組織を作ることではありません。
優先すべきは技術力より「柔軟に動けること」。 この時期は役割が限定されておらず、状況に応じて動ける人でなければ事業のスピードに追いつけません。「どの職種を採用するか」以上に「どんな人か」が重要とされる理由です。
体制の作り方としては、次の形が現実的です。
- 中核は創業メンバーが持つ/プロダクトの根幹を決める判断は、外に出さない
- 技術顧問を置く/週数時間から、技術選定や設計方針の相談相手を確保する
- 実装は業務委託で回す/機能単位で依頼し、必要な期間だけ確保する
- 正社員化は後から/一緒に働いてみて、双方が納得してから
魅力の打ち出し方も、この段階では特徴があります。開発環境が整っていない時期に候補者にとって魅力になるのは、代表やメンバーそのもの、事業内容の面白さ、成し遂げたいミッションだとされています。報酬や環境で勝負しない、ということです。
シリーズA以降で変わること
資金調達を経ると、状況が変わります。
採用に投資できるようになる。 これが最大の変化です。ただし、使えるようになったからといって全部を採用で埋めるのが正解とは限りません。
組織を作る仕事が発生する。 エンジニアが5〜15名規模になると、技術を選ぶだけでなく、採用し、評価し、文化を作る仕事が生まれます。CTOがプレイヤーとして開発しながら組織を作る、という段階です。
専任の人事を置く時期が来る。 目安として従業員20〜30人程度、あるいはシリーズAの後という考え方が示されています。急拡大の予定がある場合は、より早い段階が合理的なこともあります。
そして、シリーズBに入るとさらに変わります。採用・組織・経営との折衝で週の大半が埋まるCTOが多いのが現実とされます。技術に触れる時間は減っていきます。
段階ごとの違いを整理します。
| フェーズ | 優先すること | 外部人材の使い方 |
|---|---|---|
| シード | プロダクトを出す。顧客を得る | 技術顧問+実装の委託。正社員化は焦らない |
| シリーズA | 作ったものを伸ばす。組織の土台を作る | 中核を内製化しつつ、専門領域は外部で補う |
| シリーズB以降 | 組織として回す仕組みを作る | スポットの専門性(セキュリティ、基盤刷新など) |
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外部人材の役割は、フェーズによって変わります。 初期は「手が足りない」を埋め、後半は「その専門性は社内に持たない」を埋める。同じ外部委託でも、目的が違います。
内製と外部委託の線引き
これが最大の論点です。判断の基準を挙げます。
社内に残すべきもの。
- プロダクトの中核となる技術と、その設計思想
- 顧客とデータの理解
- 何を作り、何を作らないかの判断
- 技術選定の理由と、その記録
外に出しやすいもの。
- 仕様が固まっている機能の実装
- インフラの構築、CI/CDの整備
- 専門性が高く、常時は必要としない領域(セキュリティ診断、データ基盤の設計など)
- 一時的に人手が必要な工程
境界を判断する問いは、ひとつです。「この人が抜けたとき、事業が止まるか」。止まるなら中核であり、社内に残すか、少なくとも知識を残す仕組みが要ります。
世界から探すという選択肢
国内だけで探すことには、構造的な不利があります。
経済産業省の推計では、2030年時点でIT人材が不足するとされ、市場の成長が小さい場合でも約16万人、大きい場合は約79万人という数字が示されています。とくにAI・データ活用といった先端領域では、2030年に約12.4万人の不足と予測されています。
つまり、国内で採用競争をするということは、縮小するパイを大企業と奪い合うことを意味します。資金力で劣る側が正面から挑む戦い方としては分が悪くなります。
一方、探す範囲を広げれば状況は変わります。報酬水準は国によって大きく異なり、日本の水準がその国では十分に競争力を持つ場合があります。 技術力と報酬の関係は、国境をまたぐと一定ではありません。
働き方の面でも障壁は下がりました。海外に居住したままリモートで働く場合、日本の就労ビザは原則として不要です。日本の就労ビザは「日本国内で報酬を得る活動をする外国人」を対象とするためです。
ただし、税務や社会保険の扱いは国によって異なり、契約の段階で双方の認識を合わせておく必要があります。「ビザが不要だから何もいらない」わけではありません。
正直に言う、難しい部分
外部人材の活用は万能ではありません。実際にやると、次の壁に当たります。
何を任せるかが決まっていないと機能しない。 「人手が足りないから誰か入れたい」という状態で迎えても、指示する側の負担が増えるだけです。依頼内容が定義できていることが前提になります。
判断できる人が社内に必要。 技術的な提案が来ても、採否を決められる人がいなければ進みません。専門知識がなくても「事業としてどうあるべきか」を判断できる人は必須です。
ノウハウが残りにくい。 外部人材が抜けた後、何がどう作られているか分からない、という事態が起こります。ドキュメントを成果物に含める、社内メンバーと一緒に進めるといった設計が要ります。
時差と言語は実在する。 重なる時間が少ないほど、同期のやり取りに頼れません。非同期で正確に伝える書き方が必須になり、暗黙の前提を言語化する作業が発生します。
契約の形を間違えられない。 業務委託でありながら日々の指揮命令をしていると、労働者派遣法上の問題が生じる可能性があります。受け入れ方を決める段階で確認が必要です。
これらは避けて通れませんが、裏を返せば、ここを設計できれば外部人材は機能します。 準備なしに人を入れても効果が出ない、というだけの話です。
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