S/4HANA移行の3方式を比較する。グリーン・ブラウン・ブルーフィールドの選び分け
S/4HANAへの移行方式は3つあります。どれを選ぶかで、期間もコストも、必要な人材の経験も変わります。「とりあえず今の環境を変換すればいい」と考えて進めると、想定外の作業が後から積み上がることがあります。この記事では、3方式の違いと、どう選び分けるかを整理します。
なぜ方式の選択が重要なのか
SAP ERP 6.0(ECC 6.0)の標準保守は2027年12月31日で終了します。拡張パッケージの条件を満たせば追加費用で2030年末まで延長できますが、機能拡張は行われません。
この期限に向けて移行プロジェクトが集中していますが、方式の選択は「どう移すか」ではなく「この機会に何を変えるか」という経営判断です。長年かけて作り込んできた業務プロセスを維持するのか、標準に合わせて作り直すのか。ここが分かれ目になります。
技術的な作業量の話に見えて、実際には社内の合意形成の難易度が方式を決めることが少なくありません。
グリーンフィールド(新規導入)
既存システムを引き継がず、S/4HANAを一から構築する方式です。
前提となるのが「Fit to Standard」の考え方です。業務プロセスをシステムの標準機能に合わせ、独自の作り込みを最小限にします。
向いている場面
- 既存システムのアドオンが肥大化し、保守が困難になっている
- 業務プロセスそのものを見直したい
- グループ全体で業務を標準化したい
- 既存の履歴データを引き継ぐ必要性が低い
難しさ
業務部門との合意形成が最大の関門です。「今のやり方を変える」という決定を、現場の納得を得ながら進める必要があります。 技術以前の問題として、ここで止まるプロジェクトが少なくありません。
また、既存データの移行範囲を決める作業も発生します。何を持っていき、何を捨てるか。この判断には業務知識が要ります。
ブラウンフィールド(変換)
既存のECC環境を変換してS/4HANAへ移す方式です。設定、カスタマイズ、履歴データをそのまま保持できます。
向いている場面
- 現在の業務プロセスを維持したい
- 履歴データを引き続き参照する必要がある
- 期限が迫っており、業務改革に時間を割けない
- 既存システムが比較的整理されている
難しさ
既存アドオンの棚卸しと改修が発生します。S/4HANAでは動かない、あるいは動作が変わる部分を洗い出し、一つずつ対応する必要があります。
長年運用してきた環境ほど、誰も内容を把握していないアドオンが残っていることがあります。「使われているかどうかも分からない」ものの扱いを決める作業が、想定以上の工数になりがちです。
また、この方式では既存の課題も一緒に引き継ぎます。使いにくい部分、非効率な運用がそのまま残ります。
ブルーフィールド(選択的移行)
S/4HANAへ移行したうえで、必要なデータのみを選択的に引き継ぐ方式です。グリーンとブラウンの中間的な位置づけになります。
向いている場面
- 業務プロセスは見直したいが、一部のデータは引き継ぎたい
- グループ会社ごとに段階的に移行したい
- 変更管理の負荷を抑えたい
難しさ
データ移行の設計難易度が最も高い方式です。何を持っていくかを決めるだけでなく、移行後に整合性が保たれるかを検証する必要があります。
会計データを途中から引き継ぐ場合、期首残高の扱い、締めのタイミング、監査対応をどうするか。技術と会計実務の両方が分かる人材が必要になります。
3方式の比較
| 方式 | 業務プロセス | 既存データ | 主な負荷 |
|---|---|---|---|
| グリーンフィールド | 標準に合わせて再構築 | 必要最小限を移行 | 業務部門との合意形成 |
| ブラウンフィールド | 現状を維持 | そのまま保持 | アドオンの棚卸しと改修 |
| ブルーフィールド | 部分的に見直し | 選択して移行 | データ移行の設計と検証 |
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選び方の判断軸
次の順で考えると整理しやすくなります。
- 業務を変える意思があるか/変えられないならブラウン、変えるならグリーン
- アドオンがどれだけあるか/多く、かつ把握できていないならグリーンのほうが結果的に早いことがある
- 履歴データが業務上どれだけ必要か/必須ならブラウンかブルー
- 残り期間はどれだけあるか/短ければブラウンが現実的
- 誰が判断を主導できるか/業務部門を動かせる人がいなければグリーンは困難
正解は企業ごとに違います。 同じ業界・同じ規模でも、作り込みの度合いと社内の推進体制によって適切な選択は変わります。
なお、S/4HANAはクラウドでの提供形態も広がっており、「RISE with SAP」「GROW with SAP」といった選択肢もあります。方式の選択とあわせて、オンプレミスかクラウドかも判断することになります。
方式ごとに必要な人材が違う
見落とされがちですが、選ぶ方式によって求める経験が変わります。
- グリーンフィールド/業務設計を主導できるコンサルタント。標準機能を熟知し、業務部門と議論できる人
- ブラウンフィールド/ECCの内部構造を理解している経験者。既存アドオンを読み解ける人
- ブルーフィールド/データ移行の設計者。会計や在庫など、対象業務の実務知識を持つ人
2027年に向けて移行プロジェクトが集中しているため、いずれのタイプも獲得競争が起きています。 社内で確保しきれない場合、上流工程だけ外部人材に依頼し、実装以降は社内で進めるという組み合わせも取られます。
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