デジタル担当役員に求められるもの。日本企業でこの役職が機能しにくい理由
DX推進のために役員を置く企業が増えました。しかし数字を見ると、日本で経営層がデジタルを主導している企業は欧米の半分程度にとどまります。役職を置くことと、機能させることのあいだに距離があるということです。この記事では、この役割に何が求められ、なぜ難しく、着任するなら何を確認すべきかを整理します。
数字で見る日本の状況
調査によると、社長・CIO・CDOといった役員がDXを主導している日本企業の割合は9%でした。同じ調査でアメリカは18%、ドイツは19%という結果が出ています。
つまり、経営層がデジタルを主導している企業の割合が、欧米の半分程度ということです。役職は置かれていても、実質的な主導権を持っていないケースが多いと読み取れます。
そもそもCDOという役職自体、2010年代以降に注目された比較的新しいものです。職務内容や人材配置に関する基準が確立していないのが現状とされています。
この「基準がない」ことが、後述する難しさの背景にあります。
この役職が担うもの
CDOには2つの系統があります。
Chief Digital Officer(最高デジタル責任者)は、デジタルビジネス戦略のトップとして対外的な役割を担います。新しいデジタルビジネスモデルを策定・推進し、組織内のさまざまな部門を横断して活動します。
Chief Data Officerは、データ部門の統括者として対内的な役割を担う傾向があります。
ただし実務上は、この境界が曖昧なことも少なくありません。DXの実現においてデータ活用は核となる要素であるため、Chief Data OfficerがDXを牽引する立場を求められ、結果としてChief Digital Officerと同じような役割を担うケースもあります。
CIOとの違いも整理しておきます。CIOは主に企業内のITインフラの維持とデータ管理を担当し、CDOは新しいビジネスモデルを策定して外部に向けて活動するという違いです。
言い換えれば、CIOは「守り」、CDOは「攻め」という役割分担になります。
機能しにくい4つの理由
1. 権限と予算が伴わない。 役職名は付いたが、投資の決裁権も、他部門への指示権もない。この状態では提言はできても実行できません。これが最も多い失敗の形です。
2. 既存部門との関係が定まらない。 情報システム部門、事業部門、経営企画。それぞれとの役割分担が曖昧なまま着任すると、どこからも協力を得られません。「攻め」を担うはずが、既存の仕事の調整に時間を取られる状態になります。
3. 成果の定義がない。 何をもって成功とするかが決まっていない。売上なのか、業務効率なのか、新規事業の立ち上げなのか。基準がなければ、評価もされず、投資も続きません。
4. デジタル化の前提が整っていない。 データが各所に散らばり、形式もバラバラ。「AIを導入したいが、そもそも社内のデータが整っていない」という状況は珍しくありません。攻めを期待されて着任したが、実際には基盤整備から始めることになるという食い違いが生じます。
この4つは、いずれも着任前に確認できるものです。後半で扱います。
求められる能力
この役職では、技術力より別の能力が問われます。
事業を設計できること。 デジタルは手段であり、目的ではありません。どの事業を、どう変えるのかを描けなければ、技術の話に終始します。
組織を動かせること。 権限があっても、納得なしには人は動きません。既存部門は変化に抵抗するのが自然です。抵抗を敵視せず、理由を理解したうえで進める必要があります。
優先順位を決められること。 やりたいことは常に資源を超えます。何をやらないかを決めることが、実質的な経営判断です。
技術の実現性を判断できること。 自分で作る必要はありませんが、できるかどうか、いくらかかるかを見極められないと、判断を外部に委ねることになります。
説明できること。 取締役会、事業部門、現場。それぞれに対して、なぜこの投資が必要かを、相手の言葉で説明する必要があります。
短期の成果を出せること。 変革には時間がかかりますが、目に見える成果がなければ、次の投資は付きません。 大きな絵を描きつつ、早く出せるものを見つける必要があります。
着任前に確認すべきこと
この役職を打診された場合、確認すべき点を挙げます。ここを曖昧にしたまま着任すると、後から変えるのは困難です。
- 決裁権の範囲/いくらまで自分で決められるか。それを超える場合の手続きは
- 予算/年間いくらか。既存の維持費と、新規投資の内訳は
- 組織/直属の部下は何人か。他部門への関与はどういう形か
- 報告経路/誰に報告するか。取締役会に出席するか
- 成果の定義/1年後、何をもって成功とされるか
- 既存部門との分担/情報システム部門、事業部門との役割の線引き
- 経営の本気度/社長はこの取り組みをどう位置づけているか
最後の項目が最も重要です。経営トップが主導しているかどうかで、この役職が持てる力はまったく変わります。 日本企業でDXを経営層が主導している割合が9%という数字は、まさにここを示しています。
最初の100日で何をするか
着任後の動き方についても、実務的な考え方があります。
現状を可視化する。 どんなシステムが動き、どこにデータがあり、何に費用がかかっているか。ここを把握せずに構想を描くと、実行段階で行き詰まります。
味方を作る。 全部門を敵に回して進むことはできません。協力してくれる部門を見つけ、そこで成果を出す。成功事例がひとつあれば、次が進めやすくなります。
小さく早く成果を出す。 大規模な刷新より、まず目に見える改善をひとつ。実績が信頼になり、信頼が次の投資につながります。
言葉を統一する。 「DX」という言葉は、人によって想像するものが違います。自社にとって何を指すのかを定義し、共有することから始める必要があります。
外部の力を計画的に使う。 社内に人材がいない領域は、外部から確保する。ただし丸投げせず、判断と知識は社内に残す設計が要ります。
この役職は、うまく機能すれば企業を大きく変えられる立場です。同時に、条件が整っていなければ何もできない立場でもあります。その両面を理解したうえで臨むことが、成否を分けます。
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