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BLSは+10%、FRBは成長率が3ポイント低下|データは「無くなる/無くならない」では答えを出さない

イーランサー・ジャパン株式会社

この問いに答えようとして大半の記事が失敗するのは、結論を先に決めてデータを選んでいるからです。ここでは逆の手順を取ります。米労働統計局(BLS)、連邦準備制度(FRB)、Stanford、Harvard、査読付き国際会議の論文、そして実リポジトリを数えた実証研究。出典をすべて明示したうえで、データ同士が食い違っている箇所をそのまま提示します。結論は1つに収束しません。収束しないこと自体が、この問いの答えです。

なぜ「無くなる/無くならない」で答えが出ないのか

先に全体像を示します。実データを並べると、4つの食い違いが出てきます。

  1. 公的予測と公的実測が逆を向いている。BLSは2025–35年でソフトウェア開発職を+10%と予測し、その理由としてAIを明示している。一方でFRBの実証研究は、coder雇用の成長率が年+4.8%から約3ポイント低下したと報告している。
  2. 職種名で正反対に分かれている。Software Developers が+10%、Computer Programmers が▲7%。同じ「コードを書く仕事」がBLSの分類では逆向きになっている。
  3. 年齢で分かれている。Stanford、Harvard、Indeed——独立した3つのデータソースが若年層・ジュニア層にだけ影響が出ていることを示している。
  4. 生産性研究の結論が確定していない。時間▲55.8%(2023年)から+19%(2025年、つまり遅くなった)まで、方向すら一致しない。

この4つを踏まえずに「AIがエンジニアを置き換える」あるいは「置き換えない」と書くと、どちらの立場でも都合のいいデータだけを引いたことになります。以下、1つずつ出典とともに見ていきます。

公的予測:BLSはソフトウェア開発職を+10%と見ている

米労働統計局(BLS)の Occupational Outlook Handbook です。該当ページの最終更新は2026年8月27日。賃金は2025年5月のOEWS、雇用見通しは2025–35年の Employment Projections。公的統計です。

見落とされがちな点があります。BLS自身が、需要が強い理由としてAIを挙げている。原文は「AIのためのソフトウェア開発が拡大し続けることによって需要は強いと予測される」という趣旨で、つまり公的機関の公式見解は「AIはソフトウェア開発職の需要を押し上げる」です。

グループ全体(Computer and IT occupations)では賃金中央値109,470ドル(全職業50,980ドル)、年間約280,000件の求人見込み。米国全体の雇用が2025–35年で+3.5%、Computer and mathematical occupations が+7.3%ですから、相対的には依然として伸びる側に分類されています。

なお、BLSは今回初めてAI曝露度の4段階分類(Low/Moderate/High/Very high)を公表しました。831職種を分類し、うち「Very high」が206職種。ただしBLSは「これは雇用増減・賃金・置き換えの予測ではない」と明記しています。

BLSの公開ページはAI曝露度の各ティアに含まれる職種名を列挙していないため、Software Developers とComputer Programmers がどのティアに入るかは本記事では確認できていません。また、この分類の理論的な根拠となるデータは2023年中頃のAI能力を反映したものです。

公的実測:FRBの研究は、成長率が約3ポイント落ちたと報告している

最も重要な対抗データです。Leland D. Crane、Paul E. Soto「AI and Coder Employment: Compiling the Evidence」FEDS Working Paper(米連邦準備制度理事会、2026年3月20日)。査読前のワーキングペーパーで、FRBの公式見解ではない旨の免責が付いています。

データはCPS(IPUMS occ2010)× O*NETのプログラミングスキル評価× CES × OEWS。約2014年から2026年までの月次133観測。「coder」はO*NETスコア2.76以上の職種と定義し、全雇用の約3.7%にあたります。

ただし著者自身が「AIが50万人の職を消したという証拠ではない」と明記しています。coder雇用は絶対値では今も増加しており、著者は「崩壊は示していない」と述べています。

著者が挙げる限界も正確に押さえておく必要があります。

ここで注目すべきは賃金に屈折がないという点です。労働需要が落ちれば通常は賃金にも出ます。出ていないということは、既にいる人の単価は守られていて、調整が新規採用の側で起きている可能性を示します。次節のStanfordとHarvardの結果と整合します。

年齢で分かれる:3つの独立したデータが同じ方向を指している

ここが実データで最もはっきりしている部分です。

①Stanford Digital Economy Lab——Erik Brynjolfsson、Bharat Chandar、Ruyu Chen「Canaries in the Coal Mine?」(初版2025年8月、改訂版2026年8月12日)。データはADPの高頻度給与実務データ、2026年6月まで、米国の数百万人規模。

著者の留保が重要です。テック企業とコンピュータ職を除外しても乖離は残る——つまりこれはソフトウェア職固有の現象ではない。金利曝露・リモートワークを統制しても残り、学歴統制で一部減衰。そして因果推定ではなく記述的な「炭鉱のカナリア」だと位置づけています。

②Harvard——Seyed M. Hosseini、Guy Lichtinger「Generative AI as Seniority-Biased Technological Change」(初版2025年8月31日、本版2026年5月6日)。ソフトウェア職に最も近い実証です。

頑健性チェックでは、金融政策ショックへのジュニア特有の反応は見られませんでした。ジュニア求人の減少と同時に起きているため、供給制約ではなく労働需要の低下を示唆します。

③Indeed Hiring Lab——Svenja Gudell(Indeedチーフエコノミスト)「AI and Job Postings: From Destruction to Creation」(2026年7月8日)。民間企業の自社求人データです。

3つのデータが別の手法で同じ方向を指しています。影響は職種全体に均等に及んでいるのではなく、入口に集中している。Indeedの「増加分の71%がシニア職」は、StanfordとHarvardの結果を求人側から裏付ける形になっています。

求人とレイオフ:方向が逆のデータを両方出す

注意が必要な箇所です。Indeedは+15%、Diceは▲22%——同じ「ソフトウェア開発求人」で方向が逆です。

Dice(民間・求人媒体の自社データ)では、ソフトウェア開発求人は2025年比▲22%。一方でAI/ML職名の求人は前年同期比+173%(2025Q1→2026Q1)で、これらの職の賃金中央値はIT市場全体より+22%。データ分析+10%、セキュリティ+4%、ITサポート+1%。

母集団・基準期間・職種定義が異なるため、どちらかが嘘というわけではありません。ただし片方だけを引用すれば、正反対の結論が書けるということです。

レイオフ側も見ておきます。よく引用される layoffs.fyi の2026年累計値は二次報道間で115,430人から205,000人まで食い違っており、単独では使えません。手法が公開されている Challenger, Gray & Christmas(民間アウトプレースメント企業の発表ベース集計)を使います。

ここでも方向が分かれます。米国全体の発表削減は前年同期比で41%減っているのに、テック業界だけは54%増えている。そして「AIを理由とする削減」が1年で約7倍。ただしこれは企業が発表時に挙げた理由であり、実際の因果ではありません。AIを理由として挙げることが経営判断の説明として使いやすくなった、という効果も含まれます。

生産性研究:▲55.8%から+19%まで、方向すら一致しない

ここが最も誤用されている領域です。主要な対照実験を時系列で並べます。

METRの2025年研究が最も引用されるので、設計を具体的に見ます。被験者は経験豊富なOSS開発者16名。各自の担当リポジトリで平均約5年の経験・約1,500コミット。リポジトリは平均約10年経過・110万行超。90%以上がLLMプロンプトの実務経験あり。一方で56%はCursorを使ったことがなかった。タスク246件を「AI使用可/不可」にランダム割付し、画面録画128本・143時間を研究者が手作業でラベリングしています。

結果が示したのは、速度よりも認識のずれでした。

ただし、この研究を結論に使うのは現時点では不正確です。METR自身が2026年2月の進捗報告で立場を更新しました。

つまり「熟練者はAIで遅くなる」は2025年初頭のモデル・単一ツールチェーン・熟練OSS開発者という条件下の結果であり、測定した当事者が2026年には別の方向に動いています。

もう1つ、挙動そのものを長期間記録した研究があります。Sergeyuk らの「Evolving with AI: A Longitudinal Analysis of Developer Logs」(ICSE 2026 Research Track、2026年4月発表)。JetBrains Research、UC Irvineらによる2年間のIDEテレメトリ——151,904,543イベント/800ユーザー(AI利用者400名+非利用者400名)。JetBrainsは自社IDEのベンダーです。

著者は「因果ではなく経時パターン」と限定しています。ただし主観とログが食い違うという指摘はMETRの結果と独立に一致している点が重要です。

コード品質:学術研究とベンダー調査が正面から食い違う

ここも両方を出す必要があります。

学術研究側——Mazloomzadeh、Morovati、Khomh(Polytechnique Montréal)「How Do AI Coding Agents Contribute to Software Development?」(ACM、2026年7月。データ収集は2025年11月20日まで)。Pythonリポジトリ489件(100スター以上)のクローズ済みPR 220,612件、うちエージェント作成PR 9,428件。

ベンダー調査側——いずれも自社製品を売る企業の自社データです。

学術研究が「人間と同等」、ベンダー調査が「バグ+54%」「脆弱性10倍」。これは測定対象が違うためです。

つまり「AIが書いた1つのPRは人間のPRと同じくらい安全だが、AIを多用するチーム全体では問題が増える」という両立する読み方ができます。量が増え、PRが大きくなり、レビューが追いつかなくなる。Faros AIの「レビューなしでマージされたPR+31.3%」とGitClearの「リファクタリングが21%→3.8%」は、そのプロセス側の劣化を指しています。

開発者の主観も一致しています。Stack Overflow 2025年調査(177か国49,000名超)では66%が「ほぼ正しいが完全ではない」AI解答を最大の不満として挙げ、45%が「AI生成コードのデバッグは想定より時間がかかる」と回答しています。

自律性の到達点:人間なしで完結しているのはどこまでか

「仕事が無くなるか」を考えるうえで、最も直接的なデータです。日本の研究グループが実リポジトリで数えています。

Peralta らによる「Why Are Agentic Pull Requests Merged or Rejected?」(2026年5月21日)。早稲田大学、大阪大学、立命館大学、九州大学、奈良先端科学技術大学院大学。500スター以上のリポジトリにおけるエージェント作成PRのうち、人間のコメントが1件以上ある9,799件を対象とし、717件(却下353、マージ364)を4名のアノテーターで手作業コーディングしています。

もう1つ、規模感のデータがあります。Selvanayagam、Ghaleb(2026年8月21日、ESEM 2026)は2024年〜2026年4月中旬のデータセットにエージェント作成PRが2,830,284件あり、うちAIによるレビューを1件以上受けたのは約8.8%、製品をまたぐAIレビューは約1.6%のみと報告しています。結論は「AI対AIの閉ループコードレビューは増加しているが、いまだ少数派の現象」。

ベンチマーク側も見ておきます。

ベンダー自己申告値と第三者測定値が40ポイント以上乖離する——これが、ベンチマークを採用判断に使うときの最も実務的な注意点です。

企業の自己申告も押さえておきます。Googleは社内で生成されるコードの約75%が、人間のエンジニアがレビューしたAIコードと2026年4月頃に述べました(2024年10月約25%→2025年秋約50%→2026年4月75%)。Microsoftは2025年4月に「コードの30%がAI生成」。ただしどちらも測定手法が公開されておらず、「人間のエンジニアがレビューした」という限定句が付いています。オートコンプリートを含むかなど、定義は不明です。

現場の使い方:信頼されているのは「検証できる範囲」だけ

Stack Overflow Developer Survey 2026(2026年10月6日公表、30,000名超、169か国)。Stack Overflow自身による民間調査です。

前年(2025年版、49,000名超)との比較も示唆的です。AI出力の正確性を信頼する割合は2023年42%→2024年43%→2025年33%と1年で10ポイント落ちています。ワークフローに入れることへの好意も77%→72%→60%。「AIは複雑な問題を扱える」と考える割合は35%→29%。

利用は増え、信頼は下がっている。これは矛盾ではありません。実際に使った結果として、どこまで任せられるかの見極めが進んだと読めます。「本番運用に使うのは20%」「重要な意思決定に信頼するのは6.6%」という数字は、現場が境界線を引いていることを示しています。

では、何が起きているのか

データが示していることを、推測を混ぜずに整理します。

  1. 職種全体の消滅は、どのデータも示していない。BLSは+10%を予測し、FRBの研究も「coder雇用は絶対値では増加」と述べ、Stanfordも「経済全体での広範な雇用置き換えの証拠はない」と明記している。
  2. 影響は入口に集中している。Stanford(22–25歳が反実仮想比▲19%、経験者はギャップなし)、Harvard(ジュニア▲9%、シニアは屈折なし)、Indeed(増加分の71%がシニア職)。独立した3つのデータが同じ方向を指す。そして機序はいずれも離職増ではなく採用抑制。
  3. 調整は賃金ではなく人数で起きている。FRBは「賃金に2022年の屈折なし」、Stanfordは「調整は基本給ではなく雇用量」。すでに中にいる人の単価は守られている。
  4. 職種名より、タスクの性質で分かれている。BLSで Software Developers +10% vs Computer Programmers ▲7%。Stanfordは「代替する領域に集中、補完する領域では横ばいか増加」。仕様が決まったものを書く仕事と、仕様を決める仕事が別の方向に動いている。
  5. 自律的に完結する範囲は、まだ限定的。エージェント作成PRのうちAIレビューを受けたのは8.8%、TheAgentCompanyの完全達成率は30.3%、SWE-bench Pro の非公開商用セットは最高51.5%。そして「却下の64.3%は明確なエージェントのエラーではない」。
  6. ボトルネックはレビューに移っている。Faros AI でレビュー滞留時間(中央値)+441.5%、レビューなしでマージされたPR +31.3%。JetBrains らのログ研究で「採用したAI生成コードの約5分の1が後に削除」。Stack Overflow で「本番運用に使うのは20%」。書く速度ではなく、確かめる速度が律速になっている。

この6つから言えることは1つです。「エンジニアの仕事」という単位では問いの立て方が粗すぎる。データは職種ではなく、経験年数とタスクの性質で分かれています。

キャリア判断に落とすなら、見るべきは「AIが何をできるか」ではなく「自分の仕事のうち、検証されずに通ってしまう部分がどれだけあるか」です。AIが生成したものを確かめる仕事が増えているのであれば、確かめられる人の価値が上がっている。Indeedの「増加分の71%がシニア職」も、Stack Overflowの「出典表示が信頼の要件:93%」も、同じ方向を指しています。

出典

本記事は2026年10月28日時点で公開されている情報に基づいています。出典ごとに公的統計/査読論文/ワーキングペーパー/ベンダー自社調査の区別を明記しました。以下は確認できていない事項です。GitHub Octoverse 2026年版およびDORA 2026年版は本日時点で未公表。layoffs.fyi の公式集計値は取得できず、二次報道の2026年累計値が115,430〜205,000人と大きく食い違うため本記事では使用していません。Indeed Hiring Lab の指数の生系列、METR 2025年論文の本文、Stanford HAI AI Index 2026 の原典PDF、BLSのAI曝露ティアに含まれる具体的な職種名は未取得です。Stanford HAI AI Index 2026 が示す「22–25歳の開発者が約▲20%」は基準期間が二次報道間で不一致のため、本記事では採用していません。SWE-bench Pro/Verified の個別モデル名とスコアは単一の二次ソースのみのため、モデル名は記載せず乖離の構造のみを記載しています。

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