システム開発

GEM300は3Hzが上限。プラズマアーク検出には30kHz要る——装置通信の標準が作り直されている

イーランサー・ジャパン株式会社

半導体の製造装置を動かすソフトウェアは、組込み開発の中でもかなり特殊な領域です。装置そのものを制御するリアルタイム系と、工場の上位システムと話す通信系が、1台の中に同居している。そしていま、後者の通信規格が作り直されようとしています。理由は単純で、速度が足りないからです。

1万倍のギャップ

まず数字を並べます。

Tignis の Boyd Finlay 氏は「GEM300 is very limiting when it comes to critical tool sensor data, as it tops out at 3 hertz」と述べています。

つまり、装置の中では取れているデータが、標準の経路では上に出せない。現場が装置ログファイルを直接読みに行く回避策を取るのは、この構造があるからです。

PDF Solutions の Brian Rubow 氏は「Eventually, the limiting factor is the network and the packet sizes」とし、1パケットずつ送るのではなくデータをバッファリングする方法を考えた、と述べています。

標準のレイヤー構造

装置ソフトを書く側が触る標準は、おおむね次のように分かれています。括弧内は現行リビジョンです。

GEM300は、E37(HSMS)とE5(SECS-II)を土台に、E30、E39、E40、E87、E90、E94で構成されます。レチクルを扱う装置ではE109(レチクル・ポッド管理)が加わります。

運用上の違いも知っておくと役に立ちます。GEMインターフェースの変更にはECO(engineering change order)が必要ですが、EDAのデータ収集変更はECO不要。この差が、どちらの経路でデータを取るかの判断に効いてきます。

EDA Freeze 3:SOAP/XMLからgRPCへ

Interface A(EDA)の改訂であるFreeze 3は、HTTP/1.1+SOAP/XMLを、HTTP/2+gRPC+Protocol Buffersに置き換えるものです。対象スイートはE120/E125/E128/E132/E134/E138/E164。推進はInformation & Control技術委員会配下のDDA(Diagnostic Data Acquisition)タスクフォースです。

2026年の進捗は、北米Information & Control委員会の議事から追えます。

ベンダー側の実装も出ています。Agileo AutomationはAgil'EDAを発表(2026年3月23日)。Freeze 2(SOAP/XML)を完全サポートし、Freeze 3(gRPC/Protocol Buffers)向けのアーキテクチャを持つとしています。制御フローとデータフローを分離し、高頻度収集が装置動作を妨げない設計、暗号化通信と認証を内蔵。ただしスループットやレイテンシの改善値は示されておらず、すべて自社発表です。

暗号化されていないプロトコルに、TLSを被せる

ここが2026年の装置ソフト領域で、最も生々しい論点です。

SECS-IもHSMSも暗号化されていません。これがサイバーセキュリティ上のリスクになっているという問題意識から、GEM 300タスクフォースが安全なプロトコルを検討しています。

2回否決されているのに「技術的合意はできている」という状態です。実装側から見れば、来るのは確実だが、まだ仕様が固まっていない。新規に装置ソフトを設計するなら、トランスポート層を差し替えられる構造にしておく価値があります。

装置の中はEtherCAT

上位との通信がSEMI標準なのに対し、装置内のセンサ・アクチュエータ・モーション制御はEtherCATが事実上の標準です。

ワーキンググループは年2回開催され、最大80名が参加。Applied MaterialsとLAM Researchがホストを務めた回もあります。装置ベンダーが直接プロファイルを決めている構造です。

セキュリティ要件が、装置ソフトの仕様になる

通信の暗号化が標準化を待っている一方で、装置そのもののセキュリティ要件はすでに動いています。

実装側で効くのは、E191の拡張です。「インストール済みアップデート」「インストール済みOSコンポーネント」の2状態変数の追加は公開済み。さらにオープン/確立済みポート、実行中プロセス、ローカルユーザーアカウント、ファイアウォール状態、ドライバーバージョン、BIOS情報を追加する提案が開発中です。

つまり装置ソフトは今後、自分自身の状態をSECS-II経由で報告する機能を持つことになります。制御のための通信に加えて、監査のための通信が標準の一部になるということです。

E187自体も、IEC 62443との整合を目的にSL1(Baseline)/SL2(Enhanced)/SL3(Comprehensive)の3段階化が進んでいます。SL1の必須要件には、ベンダーサポート対象OS、出荷前の脆弱性・マルウェアスキャン、暗号化されたネットワーク通信が含まれる方向です。

最後の項目が、HSMSへのTLS導入と直結します。標準が「暗号化された通信」を求める一方、肝心の装置通信プロトコルがまだ暗号化されていない。この矛盾を埋めるのがBallot 7428/7428Aです。

E188については、エンドユーザーが支持を撤回したためタスクフォースが今後の扱いを検討中とされています。

この領域に入るエンジニアへ

  1. C/C++と組込みLinuxの経験が、そのまま前提として効く。制御は温度・圧力・ガス流量・モーターで、産業用通信はEtherCATが中心
  2. SEMI標準は外から学びにくいが、覚えると代替が効かない。標準番号とリビジョンで会話が進む領域で、入ってからのキャッチアップが前提になっている
  3. トランスポート層を抽象化しておく。HSMSへのTLS導入は技術合意済みで、仕様確定を待っている状態
  4. データ経路の選択を意識する。GEM経由はECOが必要、EDA経由は不要。どちらで取るかは性能だけでなく運用の重さで決まる

出典

本記事は2026年10月27日時点で公開されている情報に基づいています。ベンダー製品に関する記述は自社発表に基づくもので、性能の第三者検証はありません。EtherCATデバイスプロファイルの総数は2023年12月時点の数字で、それ以降の数は確認できていません。

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