プログラミング

「サーバークラスが実際に登場し始めている」。RISC-Vの2026年を、仕様の側から確認する

イーランサー・ジャパン株式会社

RISC-Vの話は、長らく「組込みでは使われている」で止まっていました。2026年の変化は、仕様の側がサーバーを前提にした形に揃ってきたことです。ベクタとハイパーバイザを必須にしたプロファイルが承認され、UEFIとACPIを要求するプラットフォーム仕様も定義された。この記事では、仕様で何が決まり、何がまだ公開情報で確認できないのかを分けて整理します。

RVA23という区切り

RISC-Vは拡張の組み合わせが自由すぎて、ソフトウェアが「何を前提にしてよいか」が決まらない——これが長年の弱点でした。プロファイルはその解決策です。

ベースISAはRV32I、RV64I、RV32E、RV64Eが承認済み。CHERIバリアントとRV128は開発中です。ベクタ拡張(RVV)は2021年承認で、32本のベクタレジスタを持ちます。

サーバープラットフォーム仕様

サーバーとして成立するために要求されている項目です。

UEFIとACPIが入っている点が実務的に重要です。既存のディストリビューションがそのまま載る前提が仕様として置かれたということで、これがないとOSごとに個別対応が必要になります。Ubuntu 26.04 LTSがRISC-Vをサポートしています。

新しい枠組み:最適化ガイダンス・オプション

興味深いのが、性能を左右するがISAの機能ではない事項を明示する仕組みが入ったことです。

「動く/動かない」ではなく「速い/遅い」を宣言する枠組みです。コンパイラとライブラリの最適化方針を実装ごとに変えられるようになります。

開発中の拡張としては、行列拡張(AME、IME、VME+ベクタベースのfast-trackオプション)、セキュリティ関連(投機バリア、メモリタギング、メモリ暗号化コンテキスト、SPMP、IOPMP、confidential computing向けsupervisor domains)があります。

CHERIの扱いも特徴的です。拡張ではなく新しいベースISA(RV32Y/RV64Y)として提案されています。Krste Asanović氏の言葉を借りれば「CHERI is not an extension; CHERI is a new base」。

拡張の数という指標

ISAの複雑さを測る目安として、こんな数字が示されています。

「モジュラーで小さい」という設計思想が、まだ数字の上でも保たれているということです。ただし拡張は増え続けており、プロファイルという区切りが必要になった理由もここにあります。

なぜプロファイルが必要になったのか

RISC-Vの設計思想は「必要な拡張だけを載せる」です。組込みでは、これが強みになります。使わない命令を実装しなければ、面積も電力も減る。

ところがソフトウェアの側から見ると、この自由度は「何を前提にコンパイルしてよいか分からない」という問題になります。

x86やArmにはこの問題が小さい。ベースラインが事実上1つに固まっているからです。RISC-Vは複数のベンダーが別々に実装するため、合意の形でベースラインを作る必要があった。それがプロファイルです。

RVA23がベクタとハイパーバイザを必須にしたのは、この2つがなければサーバー用途のディストリビューションが成立しないからです。ベクタがなければ暗号・圧縮・機械学習のライブラリが使えず、ハイパーバイザがなければ仮想化基盤が載らない。

逆に言えば、「RISC-V対応」という表記だけでは何も保証されません。RVA20なのかRVA22なのかRVA23なのか。ここを確認しないと、動くはずのソフトウェアが動かないという事態になります。

セキュリティ拡張と、CHERIという分岐

開発中の拡張のうち、実装に影響が大きいのはセキュリティ関連です。

そして最も大きな分岐がCHERIです。CHERIは拡張ではなく、新しいベースISA(RV32Y/RV64Y)として提案されています。Krste Asanović氏の表現では「CHERI is not an extension; CHERI is a new base」。

この区別は実務的に重大です。拡張であれば「使うか使わないか」ですが、ベースISAが違えばバイナリ互換がない。移植の議論が「対応するかどうか」ではなく「どちらの系統を選ぶか」になります。

行列拡張(AME、IME、VME、およびベクタベースのfast-trackオプション)も開発中です。AI推論のワークロードを想定したもので、ここが固まるとサーバー・AI用途での位置づけが変わる可能性があります。

2026年の採用状況

SiFiveのKrste Asanović氏(RISC-V International、バークレー校RISC-Vプロジェクトリード)の2026年の講演での発言です。

「サーバークラスのシステムが実際に登場し始めている。それが2026年のテーマだと思う」。複数のハイパースケーラ、データセンター事業者、サプライヤと次世代プロセッサで協業中、としています。

アナリストの評価も引いておきます。Jon Peddie Researchの David Harold氏は「RISC-Vは技術的な物好きの対象から、無視できないシリコンの選択肢に移行した」としつつ、「RISC-Vはまだ不可避(inevitable)ではないが、いまや勝負の土俵に上がっている」と述べています。組込みコントローラとSoCのハウスキーピングコアは既に実用域で、次の主戦場はサーバー、AI、メモリ、そしてオーナーシップモデルだという分析です。

RISC-Vの出荷台数・市場規模、およびRISC-V設計者の求人数・需要に関する定量データは、公開されている範囲では確認できませんでした。関連する調査レポートは有料のものが中心です。

エンジニアとして何を見るか

  1. RVA23準拠かどうかで判断する。「RISC-V対応」という表記だけでは、ベクタもハイパーバイザも入っていない可能性がある
  2. プラットフォーム仕様(UEFI/ACPI/AIA/IOMMU)の充足を確認する。ここが欠けていると、既存のOSとツールチェーンがそのまま使えない
  3. 最適化ガイダンス・オプションを読む。OilsmやOvltは、性能チューニングの前提が実装ごとに違うことを明示する仕組み
  4. CHERIは別のベースISAとして追う。拡張ではないので、移植の話は「拡張を使うか」ではなく「どちらのベースか」になる

現時点で言えるのは、仕様はサーバーに追いついたが、出荷と採用の定量的な裏付けはまだ公開情報では追いきれないということです。2026年は、その差が埋まるかどうかを見る年になります。

日本の開発者にとって、どこから関わるか

RISC-Vは仕様が公開されており、参加の入口が複数あります。他のISAにはない特徴です。

とくに3番目は、ソフトウェアエンジニアがハードウェアの知識を直接使える珍しい領域です。ベクタ長が実行時に決まるRVVの性質上、x86のSIMDとは最適化の考え方が違う。ここは既存の経験がそのまま移せない部分で、だからこそ人が足りていません。

もう1つ、組織として関わる道もあります。RISC-V Internationalの各タスクグループは公開されており、仕様の議論に参加できる。自社の用途に必要な拡張を提案する立場に立てるのは、プロプライエタリなISAにはない選択肢です。

出典

本記事は2026年10月27日時点で公開されている情報に基づいています。出荷台数・市場規模・求人需要の定量データは確認できていません。採用企業に関する記述は講演・報道に基づくもので、各社の公式発表で裏付けたものではありません。

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