投資銀行からITスタートアップへ。通用するスキルと、通用しないもの
投資銀行からスタートアップへ移る人は増えています。財務の専門性は明確な武器ですが、そのまま持ち込めるとは限りません。この記事では、何が通用して何が通用しないのか、どのポジションが受け皿になるのか、報酬をどう考えるべきかを整理します。
そのまま通用するもの
投資銀行で身につく能力のうち、スタートアップで即座に価値になるものがあります。
- 財務モデリング/事業計画を数字に落とす能力。多くのスタートアップに不足している
- 資金調達の実務/投資家との対話、条件交渉、契約書の勘所
- 企業価値評価/自社の価値を説明し、株主と交渉する場面で直接効く
- 資料と説明の精度/投資家向けの説明で、そのまま基準として使える
とくに資金調達の経験は希少です。創業者が独学で対応していることが多く、経験者が入るだけで条件が変わることがあります。
通用しないもの
一方、持ち込めないものもあります。ここを認識しているかどうかで、着任後の3か月が変わります。
第一に、看板です。投資銀行の名前で開いていた扉は開きません。第二に、分業の前提です。資料作成も、データ収集も、実行も自分でやります。第三に、完成度の基準です。スタートアップでは、8割の精度で早く出すほうが正しい場面が多くあります。
最も摩擦が起きやすいのは3つ目です。精度を落とすことを品質の妥協と捉えると、意思決定の速度で組織と衝突します。
受け皿になるポジション
実際に移る先は、いくつかの型に分かれます。
- CFO・経営管理/資金調達と管理体制の構築。最も経験が直結する
- 事業開発/提携、アライアンス、新規事業の立ち上げ。交渉力が活きる
- 経営企画/数字に基づく意思決定の仕組みづくり
- 投資・M&A担当/自社での買収や資本業務提携を担う
注意したいのは、フェーズによって求められるものが違うことです。シード期のCFOは経理も採用も総務も担いますが、シリーズC以降では専門性が問われます。自分の経験がどのフェーズに合うかを見極めないと、期待とずれます。
報酬をどう考えるか
現金報酬は、多くの場合下がります。ここをストックオプションで埋める設計になりますが、その価値は出口が実現して初めて確定します。
スタートアップの出口については、EXITの多くがM&Aであるという指摘があり、IPOだけを前提に考えるのは現実的ではありません。買収額によっては、優先株の分配条件により普通株の取り分がほとんど残らない場合もあります。
行使価格、権利確定の期間、退職時の扱い、優先分配の条件。この4点を入社前に確認しておくべきです。投資銀行出身であれば、条件を読む能力は本来あるはずの領域です。
うまくいかない典型
転身が失敗する理由は、能力不足よりも期待のずれであることが多いとされます。
よくあるのは、「分析して提言する役割」として入ってしまうケースです。スタートアップが求めているのは、多くの場合、提言ではなく実行です。誰もやっていない仕事を拾う姿勢がないと、居場所ができません。
もうひとつは、意思決定の速度への不満です。情報が揃わないまま決める場面が続きます。これを「雑だ」と感じるか「そういうものだ」と受け入れられるかは、適性の問題です。
着任してからの90日
移った直後の進め方が、その後の立ち位置を決めます。
最初にやるべきは、数字の整理です。多くのスタートアップでは、資金繰り、原価、顧客ごとの採算が整っていません。ここを可視化するだけで、経営の議論の質が変わります。短期間で成果が見え、信頼を得やすい領域でもあります。
同時に、実務を自分で回す姿勢を見せることが重要です。分析だけでなく、請求書の処理も、採用の面談も引き受ける。この期間に「一緒にやる人」と見なされるかどうかが、その後の発言力を決めます。
金融出身者が特に貢献できる領域
スタートアップで不足しがちで、かつ金融出身者が埋められる領域があります。
- 資金調達の設計/時期、金額、条件。経験の有無で条件が変わる
- 投資家との対話/期待値の管理と、悪い情報の伝え方
- KPIの設計/何を測れば経営判断ができるかを決める
- M&Aの検討/買う側でも売る側でも、実務を知っている人が社内にいる価値は大きい
創業者が最も孤独になりやすいのは資金の判断です。ここを一緒に考えられる人材は歓迎されます。
人材をお探しの企業さまへ
イーランサーでは、専任担当がご経歴と希望条件を整理したうえで案件をご提案し、条件面の調整もお手伝いしています。すぐに稼働できる状態でなくても、情報収集としてご相談いただけます。
ご登録いただいた情報が企業に公開されることはありません。氏名・連絡先を伏せたスキルシートを使用します。登録から案件のご紹介、契約手続きまで費用は一切かかりません。
相談する