金融業界のエンジニアの仕事とは。システムの種類と、求められる技術
金融業界のエンジニアは、他の業界と何が違うのか。技術そのものより、止められないという制約と、規制の存在が働き方を規定します。この記事では、扱うシステムの分類、実際に起きている障害の傾向、求められる技術と姿勢を、公的な資料をもとに整理します。
扱うシステムは3つに分かれる
金融機関のシステムは、大きく3つの層に分けて理解すると整理しやすくなります。
- 勘定系/口座残高と取引を管理する中核。止まると業務全体が止まる。可用性と正確性が最優先され、変更のハードルが最も高い
- 情報系/顧客データの分析、営業支援、リスク管理。比較的新しい技術が入りやすく、クラウド活用も進みやすい
- 決済系/振込、カード、コード決済など、外部のネットワークと接続する領域。他社システムとの連携が前提になる
どの層を担当するかで、仕事の性質は大きく変わります。勘定系は保守と移行が中心で、慎重さが評価されます。情報系は新規開発の比率が高く、技術の幅が求められます。求人票を見るときは、まずどの層の話かを確認する必要があります。
他業界と何が違うのか
最大の違いは、「止められない」という制約が制度として存在することです。
金融庁は監督指針等に基づき、金融機関からシステム障害の報告を受領しています。障害が起きれば当局への報告義務が生じ、復旧状況、原因、再発防止策の確認を受けます。不具合が技術的な問題にとどまらず、監督上の論点になるという点が、他業界との決定的な差です。
この構造は、開発の進め方に直結します。テストの工程が長く、本番作業には複数人の確認が入り、変更の記録が厳密に残されます。速度より確実性が優先される理由は、文化ではなく制度です。
実際に何が起きているか
金融庁が毎年公表している「金融機関のシステム障害に関する分析レポート」によれば、2023年度に金融機関から報告されたシステム障害は約1,900件とされます。対象は預金取扱等金融機関、保険会社等、金融商品取引業者、貸金業者などを含みます。
同レポートでは、障害を4つの端緒に分けて分析しています。
- サイバー攻撃・不正アクセス等の意図的な行為
- システム統合・更改プロジェクト
- システムの日常的な保守・運用
- プログラム更新等、普段と異なる特殊作業
とくにシステム統合・更改は、影響が大きく専門性も高いため難度が高いと指摘されています。委託先を含めた管理態勢、仕様書などの開発文書の整備、有識者によるレビュー体制の確保が課題として挙げられています。
また、外部委託先が管理する機器の脆弱性を突かれた不正アクセスや、DDoS攻撃によってインターネットバンキングが利用できなくなった事案も報告されています。自社の内側だけを守れば足りる領域ではないことが分かります。
求められる技術と姿勢
技術要件は担当する層で異なりますが、共通して問われるものがあります。
- 可用性と復旧の設計/落ちない設計より、落ちたときに戻せる設計が評価される
- テスト設計/考慮漏れがそのまま障害になる。網羅性を説明できることが要件になる
- 変更管理/誰が、いつ、何を、なぜ変えたか。記録が残せることが前提
- 外部連携の理解/決済ネットワークや他社システムとの接続仕様
- セキュリティ/委託先を含めた範囲での対策が求められる
レガシーな環境が残る領域も多く、新しい技術だけを扱いたい人には向かない場面があります。一方で、既存システムの仕様を読み解き、影響範囲を見極める能力は、他業界でも評価される汎用的な力です。
この業界を選ぶかどうかの判断軸
向き不向きは、次の3点で整理できます。
第一に、慎重さを評価される環境が合うか。早く出すことより、壊さないことが価値になります。第二に、手続きの多さに耐えられるか。承認、レビュー、記録は省略できません。第三に、社会基盤に関わる責任を引き受けられるか。
報酬水準や安定性で語られることの多い領域ですが、実際に日々効いてくるのはこの3点との相性です。求人票の技術スタックより、どの層のシステムを、どういう体制で扱うのかを確認するほうが、入ってからのずれが小さくなります。
この業界でのキャリアの積み方
金融のシステムに関わる人のキャリアには、いくつかの型があります。
- 深める/勘定系や決済の専門家になる。代替が効きにくく、長く需要がある
- 広げる/複数の業態やシステム層を経験し、全体を設計できる立場へ
- 移る/可用性と品質の経験を、他業界の基幹システムに転用する
- 作る側へ/金融機関から、金融向けの製品やサービスを提供する側へ
3つ目の転用可能性は、この業界の隠れた利点です。止められないシステムを扱った経験は、医療、公共、物流など、同じ性質を持つ領域で高く評価されます。
入る前に身につけておくとよいこと
金融特有の知識は入ってから覚えられますが、先にあると立ち上がりが早い領域があります。
技術面では、データベースのトランザクション、ネットワークの基礎、テスト設計。いずれも金融に限らず基礎として効きます。
業務面では、決済の流れ、勘定の仕組み、金融商品の基本。専門書だけでなく、金融庁や日本銀行が公開している資料が入門として使えます。
姿勢の面では、記録を残す習慣です。誰が、いつ、何を、なぜ変えたか。この業界では技術力と同じくらい評価される部分であり、他業界でも通用する習慣になります。
本文中の数値は各調査時点のものです。調査主体により定義や推計方法が異なるため、出典を確認のうえご参照ください。
案件をお探しの方へ
イーランサーでは、専任担当がご経歴と希望条件を整理したうえで案件をご提案し、条件面の調整もお手伝いしています。すぐに稼働できる状態でなくても、情報収集としてご相談いただけます。
ご登録いただいた情報が企業に公開されることはありません。氏名・連絡先を伏せたスキルシートを使用します。登録から案件のご紹介、契約手続きまで費用は一切かかりません。
案件を見る