キャリア

総合商社のデジタル業務とは何か。事業投資と技術が交わる場所でのキャリア

イーランサー・ジャパン株式会社

総合商社のデジタル部門は、事業会社の情報システム部門ともITベンダーとも性質が異なります。自社のシステムを作るのではなく、投資先や取引先の産業そのものを変えることを目指すためです。この記事では、商社のデジタル業務が何を扱っているのか、なぜ人材が不足しているのか、そしてこの領域でどんなキャリアが開けるのかを整理します。

商社のデジタル業務は何が違うのか

一般的な事業会社であれば、デジタル部門の仕事は自社の業務を効率化することが中心です。ITベンダーであれば、顧客のシステムを作ることが仕事です。

総合商社は、そのどちらとも違います。投資先の事業価値を高めること、そして取引のあるバリューチェーン全体を変えることが目的になります。

この違いは、商社が持つ特殊な立ち位置から来ています。総合商社はサプライチェーン全体にわたって幅広い事業を展開し、あらゆる産業と接点を持っています。 資源、電力、流通、食品、機械。この横断性が、他の業種にはない資産です。

「データの宝庫」と呼ばれるのもこのためです。ひとつの企業の中に、複数の産業のデータが集まる構造になっています。

ただし、データを持っていることと、活用できることは別です。ここが各社の課題になっています。

各社の体制

主要各社は、グループを横断する専門組織を立ち上げています。

いずれも共通するのは、産業の知見とデジタル技術の知見を併せ持つ人材を集め、データ分析やプラットフォームサービスに強みを持つ専門会社を傘下に置く構造です。

また、スタートアップへの投資も活発です。三菱商事は大容量データ処理技術を持つ企業や、位置情報データベースを持つ企業に出資しており、生成AI・バイオ関連を狙うCVCファンドも設立しています。

2つの方向性

商社のデジタル戦略は、大きく2つに分かれます。

ひとつは、外販するという方向。 自社で培ったデジタル能力を、他社に対するサービスとして提供します。伊藤忠のデジタル事業群は、従来ITコンサルティング会社が担っていた領域へ進出しました。

もうひとつは、自グループの事業を変えるという方向。 投資先や取引先の事業価値をデジタルで高め、その果実を事業収益として得ます。

どちらを主軸に置くかで、必要な人材も評価の尺度も変わります。外販なら「売れるサービスを作れるか」、自グループ向けなら「事業の数字を動かせるか」が問われます。

うまくいく場合と、そうでない場合

この領域は、期待どおりに進むとは限りません。実例があります。

三菱商事は2021年、NTTと合同でDX推進の中核会社を設立しました。既存のデジタル子会社と合わせ、高度なIT人材を揃えた陣容で業界に参入しています。しかしこの会社は目立った外販成果を得られず、2025年に他社と統合される形で再編されました。

一方、伊藤忠はコンサルティングからシステム開発までを網羅する事業群を構築し、着実に収益を上げているとされます。同じ「商社のデジタル戦略」でも、結果が分かれているのが現状です。

この差から読み取れることがあります。資本と人材を投じれば成功する領域ではないということです。優秀な技術者を集めても、売れるサービスになるか、事業の数字を動かせるかは別の問題として立ちはだかります。

この領域に関わるなら、「技術的に正しいこと」と「事業として成立すること」の距離を理解している必要があります。

人材が足りていない

各社が共通して抱える課題が、人材です。

「人が財産」と言われる商社ですが、デジタル人材の層が厚いとは言えないとされ、各社は採用と育成の両面で動いています。

育成の面では、研修による底上げが進んでいます。三菱商事は2021年度から、年次や資格を問わずDX案件を担うリーダー候補を対象としたプログラムを実施し、入社3年目の社員にデータ分析の基礎研修も行っています。住友商事は2026年までに1,000人のDX推進人材を育成する計画を掲げました。

採用の面では、外部人材の獲得競争が激化しています。住友商事の子会社の経営者は、「技術に造詣の深い人間は取り合いになっており、供給が追いついていない」と述べています。

構造的な難しさもあります。デジタル技術に深い知見を持つ人材は、ITやコンサルティングの業界に流れやすい傾向があるためです。商社が持つ「産業へのアクセス」という魅力を、技術者にどう伝えるかが課題になっています。

この領域でのキャリア

技術者やコンサルタントから見たとき、この領域には独特の性質があります。

扱う範囲が広い。 ひとつの産業に閉じず、複数の産業を横断します。資源、電力、流通、食品。それぞれの業務を理解する必要があり、学習量は多くなりますが、視野は確実に広がります。

事業の判断に近い。 システムを作ることより、「この投資先にどんなデジタル施策が有効か」「この事業をどう変えるか」を考える比重が大きくなります。技術より事業側の言語で話す場面が増えます。

成果が数字で問われる。 効率化ではなく、事業価値の向上が目的です。「システムが動いた」では評価されず、「事業の数字が動いた」が求められます。

投資という視点が入る。 スタートアップへの出資、技術デューデリジェンス、投資先の技術支援。技術を評価する目が、投資判断に直結します。

関わり方としては、次のような形があります。

最後の形は、この領域では現実的な選択肢です。専門人材の獲得が難しい状況が続いており、外部人材を活用する余地が構造的に大きいためです。

逆方向のキャリアもあります。商社のデジタル部門で得た「産業を横断する知見」と「事業判断に関わった経験」は、その後のキャリアで希少な資産になります。技術と事業の両方が分かる立場は、どの領域でも不足しています。

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