フリーランスエンジニアの契約形態。準委任契約と請負契約の違いと、契約前に確認すべきこと
フリーランスとして案件を受ける際、契約書の冒頭に書かれた「準委任」か「請負」かという一語で、責任の重さも報酬の受け取り方も変わります。どちらが有利という話ではなく、案件の性質に合っているかが問題です。この記事では、2つの契約形態の違いを法律の条文に沿って整理し、2024年11月に施行されたフリーランス新法で何が変わったのか、契約前にどこを確認すべきかをまとめます。
業務委託契約の3つの種類
「業務委託契約」という名前の契約類型は、実は民法にありません。実務上の呼び名であり、中身は次の3つに分かれます。
- 委任契約/法律行為の代理を委託する契約。弁護士や税理士への依頼が典型で、エンジニア案件で登場することはほとんどありません
- 準委任契約/法律行為以外の事務の遂行を委託する契約(民法第656条)。ITエンジニアの案件で最も多く使われます
- 請負契約/仕事の完成を約束する契約(民法第632条)。受託開発やスポットの制作案件で使われます
契約書のタイトルが「業務委託契約書」であっても、条文を読めばどちらの性質かは判断できます。タイトルではなく中身を見ることが出発点です。
準委任と請負、決定的な違い
両者の違いは「何に対して報酬が支払われるか」に集約されます。
| 項目 | 準委任契約 | 請負契約 |
|---|---|---|
| 報酬の対象 | 業務の遂行そのもの | 仕事の完成(成果物) |
| 完成義務 | 負わない | 負う |
| 負う義務 | 善管注意義務(民法第644条) | 契約不適合責任 |
| 報酬の決まり方 | 稼働時間・人月が基準になることが多い | 成果物単位で定めることが多い |
| 主な案件例 | 常駐・リモートでの開発支援、運用保守、コンサルティング | 受託開発、サイト制作、単発の成果物納品 |
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請負契約では、成果物が完成しなければ報酬を受け取れません。 さらに、納品物に契約の内容と合わない点があれば「契約不適合責任」を負い、修補や損害賠償を求められる可能性があります。この責任は、2020年4月の民法改正で従来の「瑕疵担保責任」から名称と内容が改められたものです。
一方の準委任契約では、完成義務を負いません。ただし何をしてもよいわけではなく、「善管注意義務」を負います。これは民法第644条に定められた、受任者の職業や地位から見て通常求められる注意を払う義務です。プロとして相応の水準で業務にあたることが前提になります。
要件が固まりきっていない開発や、長期の運用保守で請負契約を結ぶと、完成の定義が曖昧なまま完成義務だけを負うことになりかねません。案件の性質と契約形態が噛み合っているかを、受ける側も見ておく必要があります。
2020年の民法改正で加わった「成果完成型」
2020年4月1日施行の改正民法により、準委任契約に「成果完成型」という区分が新設されました。従来からある「履行割合型」とあわせて、現在は2種類に分かれます。
- 履行割合型/業務の遂行そのものに対して報酬が発生する。稼働時間や人月で精算する一般的な形
- 成果完成型/成果に対して報酬が発生する。ただし請負とは異なり、完成義務そのものを負うわけではない
成果完成型は請負契約と混同されやすい区分です。成果に報酬が紐づく点は似ていますが、契約不適合責任を負うかどうかが異なります。 契約書に「成果」という言葉が出てきたときは、それが準委任の成果完成型なのか請負なのかを確認しておくと安全です。
フリーランス新法で変わったこと
2024年11月1日、「フリーランス・事業者間取引適正化等法」(通称フリーランス新法/正式名称は特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が施行されました。
この法律では、フリーランスを「特定受託事業者」と定義しています。業務委託で仕事を受けており、従業員を雇用していない個人、または役員1名のみで従業員のいない法人が対象です。法人化していても、一人法人であれば保護の対象になります。
発注する事業者側には、主に次の義務が課されました。
- 取引条件の明示/業務内容、報酬額、支払期日などを書面または電子データで示す
- 報酬支払期日の設定/給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に支払う
- 禁止行為/報酬の減額、返品、買いたたき、正当な理由のない受領拒否など
- ハラスメント対策と就業環境への配慮/相談窓口の設置、育児・介護と両立できる納期設定への配慮
従業員を1人でも雇用している企業であれば、中小企業やスタートアップも適用対象になります。受ける側としては、契約条件が書面で示されないまま作業に入る状況は、そもそも法の求める形になっていないと考えてよいということです。
偽装請負に注意する
契約書上は準委任や請負でも、実態として発注者から直接の指揮命令を受けている場合、労働者派遣に該当し、労働者派遣法違反となる可能性があります。 これが「偽装請負」と呼ばれる状態です。
判断の分かれ目は、業務の進め方を自分で決められるかどうかにあります。作業時間や作業手順を発注者が細かく指示し、日々の指揮命令が発生しているのであれば、契約書の名称にかかわらず実態は派遣に近づきます。
常駐案件では、発注者の現場に入って働く以上、指示と依頼の境目が曖昧になりがちです。契約の時点で、報告の頻度や連絡の窓口、作業の裁量範囲がどう定められているかを確認しておくことが、後のトラブルを避けることにつながります。
契約前に確認すべき6項目
契約書を受け取ったら、少なくとも次の6点は目を通しておくことをおすすめします。
- 契約の種類/準委任か請負か。準委任なら履行割合型か成果完成型か
- 業務範囲/どこまでが担当で、どこからが範囲外か。曖昧なほど後で揉めます
- 報酬と精算条件/金額、支払期日、稼働時間の上限下限と超過・不足時の精算方法
- 検収の条件/請負の場合、何をもって完成とするか。判断基準が書かれているか
- 知的財産権の扱い/成果物の権利がいつ誰に移るか
- 中途解約の条件/解約時の通知期間と、それまでの報酬の扱い
とくに業務範囲と検収条件は、後から認識のずれが表面化しやすい部分です。着手前に文面で確認しておくほうが、結果的にお互いのためになります。
※ 本記事は一般的な情報の整理であり、個別の契約に関する法的助言ではありません。具体的な契約内容についての判断は、弁護士等の専門家にご相談ください。
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